第17話 魔王様、勇者と邂逅する。
ゼセン村に勇者が来た。魔族との最前線の場に、魔族を滅ぼすために戦う者が来た。意図せずに彼が倒すべき魔を統べる者が居る場所へ来た。ゼセン村に迫る危機を退けて、無事に帰って来た。
ゼセン村を囲む鉄の壁、その門戸が大きな音を立てて開き、外の夕焼けの光と共に勇者一行がゼセン村に入る。その姿を魔王は遠巻きに見ていた。
「(あれが、噂に聞く人族の希望)」
見れば、まだどこか幼さが残る少年とも青年ともつかぬ歳の男児が先頭を歩き、周囲に実に分りやすい装備に身を包んだ、俗に勇者パーティと呼ばれるものが続く。勇者の後ろに居るのは三角形のツバの広いとんがり帽子を被った魔術師。その後ろに白い頭巾を被った僧侶。更にその後ろには大きな斧を持ち角の生えた兜をかぶる軽装の戦士。
たった四人で、名だたる魔族の将を討ち、一部の種類の魔族を根絶やしにし、魔族の血に飢えた者たちがある種愛してやまない、人族の……怪物。
「(やるべきか。ここで、人族の多くと、勇者一行を相手取り、魔族と人族の戦いに決定打を打つ戦いを……いや)」
その気になれば、ゼセン村はデカい鉄の鍋に成ったろうし、どこかからか疲れて帰って来た勇者一行などさほど魔王は苦労しなかっただろう。
だが、今の魔王にはやる気がなかった。
単純に長旅や慣れないことの連続で、また精神的に疲れることも多かったのもある。さらに重ねて言うならば、魔王には争いを起こす気力がなかった。ここに来るまでに人族の生活を垣間見て、敵であっても憐みに似た心を抱いたためだ。
この憐みの心のようなものは、本来は様々な事情がある魔族を束ねるにおいて非常に有益な才覚なのだが、誰にとって幸か不幸か、メンタルをやられている最中の魔王は、いわば感傷的であった。
つまり、魔王は少々、休業中の状態だったと言える。
「(しかしどうしたものか。勇者一行がいるとなると、ますますもって“彼”が心配だが)」
リプライリングの通信相手が
魔族にとって超危険人物である勇者が居る場所で、何かのタイミングで魔族だとバレれば、きっと無事では済まない。勇者一行は時に魔族の爪や皮、内蔵までも何かに使うのか剥ぎ取っていると魔王は聞いている。魔族の中でも獲物の首を数珠つなぎにしてネックレスにしている種族は居るには居るが、魔王は正直その手の輩には心底
魔王の知りえないことだが、魔族の体の一部は人族にとっては有益だ。例えば、
だからこそ、魔族は人族を嫌悪し、そして、勇者のような強い個体を恐怖している。魔族にとって、恐怖とは支配だ。
「あの、何か探し物ですか?」
路地裏でリプライリングの話し相手を探す魔王の背中に、誰かが声をかける。
気のせいでなければ、探し人の声だと魔王は思い、その声の主の方へ振り返った。
そう、そこには勇者が立っていた。
なぜ、何を思って自分を勇者は追って来たのか。魔王とバレたのか? どうやって? バレたなら何を思って単身で追って来た。
なぜ、探し人の声と似た声を勇者が発するのか。声が似ているだけ、聞き間違いか? 似過ぎている。しかし、目の前に居るのは勇者だ。
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