第13話 魔王様、やっぱり誤解される。
御者の老人に軽く別れを言い、派手な鎧の騎士に連れられ、案内されたのは豪勢な鉄製の馬車。鎧に身を包んだ大きな馬六頭で、鉄の塊を運ぶ形らしい。
「(あれは……
どうにも鋼鉄の馬車に近づくほどに頭痛がし、体は重くなっていく。おそらく、人族の要人を運ぶための物であり、それ故の装甲とバーバリアン・キャンセラーなのだろう。
だが魔王には効果が無かった。魔王が非常に強力な魔族だから、ではない。単純に……
「(しんどいが、この感覚はいつものだな)」
バーバリアン・キャンセラーが小型であったためか、その効果は魔王がここ最近受けている鬱の症状、体が重いと感じるそれとあまり変わりがないため、いわば“慣れていた”ものと大差が無かったからである。
もっとも、慣れてはいけない感覚ではあるのだが。
「(しかし、流石におかしいな。もし彼らが
流石に判断能力が鈍っている魔王でも状況が飲み込めてくる。
「(ええい、私はどうかしているぞ)」
かぶりを振って踵を返そうとするのを、派手な鎧の騎士が呼び止める。
「さあさ、こちらへどうぞ、大賢者様」
「大賢者様?」
思わず魔王は復唱する。
派手な鎧の騎士は魔王に対してぺこぺことお辞儀を挟みながら話を、誤解している話を続ける。
「いえいえ、皆まで言わずとも結構です。我々は存じ上げております。こんな時にゼセン村まで行く、一人で
魔王の頭に疑問符が飛び交ったが、即座にそれに乗ることにした。
「如何にも。よくぞ見破った。我こそが大賢者である。急ぎ、ゼセン村まで行く必要があるところ、真に助かった」
とは言いつつも、魔王は大賢者が何者か知らないし、もしかしたら魔族からすると危険人物であるそんな輩が、人族との戦いの最前線であるゼセン村まで来る予定が有るのだとすると、むしろ今からでも魔王城に戻って作戦を布くべきでは、などと思い……同時に、魔が差した。
いつもいつも自分勝手に動き、思いやれば罵倒が返り、手を差し出せば遅いと言われ、ついにはこちらが助けを求めれば『自分でやれ』と返して来た輩たちのために、今一度、罵声を浴びに帰るのか。
魔王は、派手な鎧の騎士が招くままに鋼鉄の馬車に乗り込む。
「(きっと、これは良くない判断だ。あるいは、これもまた、鬱などというもののせいなのかもしれない。だが……)」
魔王城から離れていくこと、それが、魔王の中で安心感を強めていっている。魔王はそのことを自覚し始めた。
魔王が鋼鉄の馬車へ乗り込むと、派手な鎧の騎士が向かいに座り、兜を脱ぐ。中からは端正な顔つきの赤毛の中年男性が現れる。目の下に僅かに隈がある。
突如、派手な鎧の騎士が何か気づいたように魔王へ驚いた声をあげる。
「い、如何なさいましたか!? 座席に何か不具合が? ああ、お迎えに上がらなかったことでしょうか!? いったい……」
なんのことかと
魔王は服の袖で目を擦る。
「なんでもない。あくびが出ただけだ」
これは、悪いことだ。責務から逃げるなど、許されることではない。これは、責務に戻るために、行く旅路なのだ。
魔王はそう自分に言い聞かせたが、胸は何かに絞めつけられて苦しかった。
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