第12話 魔王様、確信される。
「何を騒いでる!」
御者の老人の怒声が集めた注目の元に、一際派手な鎧姿の騎士が現れる。御者の老人に胸ぐらを掴まれていた兵士が弁明する。
「すみません、騎士殿。私の言葉遣いが悪くて、通行者を怒らせてしまったようで……それが、このお二人、リオワ村から来たと……後ろの者が
人族の中では兵士と騎士は違う物だ。村や町が雇い主の兵士と違い、騎士は国王を戴く国の兵士であり、いわば正規の兵である。簡単に言えば、騎士の方が偉い。
派手な鎧の騎士は魔王に一瞥する。
「サイクロプスを倒した? あれを倒すにはそれこそ勇者か大賢者ぐらいの実力が無いと……それでも一人で倒せるかどうか……いや、ゼセン村へ向かうと言ったか?」
御者の老人は、今度は派手な鎧の騎士に今度は噛みつき始める。
当の魔王はというと……
「(すごく目立っている。確かに少々目立つだろうなとは思ったが、ここまで目立たなくていいじゃないか。魔族だとバレないかだけ心配だが)」
派手な鎧の騎士は御者の老人を払いのけ、魔王の傍へ詰め寄る。
そして今度はじっくりと見つめ、騎士は正した言葉で魔王に接する。
「ご無礼を。ゼセン村まで行くのでしたね。では、あなたの身元はこちらで預かりましょう」
急な展開に流石に魔王でも困惑した。
それと同時に猜疑が生まれる。派手な鎧の騎士の顔は兜で見えない。
「(なんだ急に。どうしたら突然そんな話になるんだ)」
いくつかのパターンを魔王は考えた。
例えば、誰かと勘違いしている場合だ。その誰かは魔王と同じくリオワ村からゼセン村まで移動する予定の、王国の騎士より偉い者だった。
いや、だったらそんな人物の顔を見間違えるのか? 確かにフードを被ってはいるが。それで見間違えるほどじゃないはずだ。
人違いでないなら、この派手な鎧の騎士の出身がリオワ村で、故郷に多少は、意図せずではあったにしろ助けになるようなことをしたのだと御者の老人から聞いて……
それもない。ならば御者の老人の態度は違うだろうし、御者の老人の話にもっとまともに向き合うだろう。
となると……こちらが魔族であることに気付いたのか? 気づいたがまともにやり合ったのでは勝機は無いと察し、不意打ちするためにこちらの要望をまず叶える形を取り油断させる作戦か。
そういわれてみれば、この変化の術も完ぺきではない! まさか、一目で見破ったのか!? この騎士は、できる奴なのか!?
などと警戒を始めた魔王の近くには、気が付けば多くの騎士が詰めかけていた。
全員蹴散らすなど訳でも無いが、せっかくここまで来れた、あと少しでロンド谷を抜けられるはずが、このままではリプライリングの通信相手と会う前に大問題になって……リプライリングの通信相手?
魔王の脳裏に、リプライリングの通信相手である(魔王はそうだと思っている)
「もしや……お前たちは、お前たちもそうなのか?」
魔王の口から洩れたその言葉を、騎士たちは聞き洩らさなかった。
騎士は力強く頷き、ついには膝をついて魔王に改めて礼をする。その様子に魔王の警戒心は薄れていく。ならば、この騎士たちについて行けば、ゼセン村まですぐなのだ、と。
なお、魔王はまた知らないことだが、鬱になると判断能力が大きく鈍るものである。そう、当然のことながら、騎士たちはチェンジリングではない。
そんなこととは露知らず、魔王は騎士たちの招きに応じる。
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