第7話 魔王様、流される。
『もし聞こえているなら、返事を下さい』
リプライリングから、はっきりと呼び掛けられる。
魔王はリプライリングを手に取り、何も考えずに応答する。
「もしもし」
『ああ、良かった。先日はすみませんでした。ちょっと反省しました』
「何を、ですか?」
『いえ、その……あなたが神殿の偉い人なのかと思いまして……儀式を行う側って言ってましたし』
「ああ……」
『神殿の偉い人にはちょっと、苦手意識がありまして……』
魔王はうまく話を頭の中で整理できずにいた。話に対して上の空に、適当な返答しかできない。
「そうですね。えっと、なんでしたっけ? 愚痴の、ああいや、相談?」
流石にリプライリングの通信相手にも困惑が現れ始める。
『あの、大丈夫……ではなさそうですね』
「いえ、まだ大じょ……はい」
先日言われた「大丈夫な人は『まだ大丈夫』とは言わない」がかろうじて魔王の脳に浮かぶ。
リプライリングの相手は少し悩んでいるような唸り声を出し、続いて意を決したかのように自分に喝を入れる声がリプライリングから聞こえてくる。
『解りました。では……知り合いの神官の人に頼みます』
「知り合いの……神官」
『えっと、今そちらはどこに居ますか? ああいえ、ゼセン村まで来れるならそこの宿屋で待ち合わせをしようと思いますが』
「近くの村……ゼセン村……近くの村は……ゼセン村?」
『ゼセン村に居るんですか? え? じゃあ、宿屋まで来れそうですか?』
徐々に、誰かと話しているうちに魔王の脳が酸素を得始め、脳裏にずっとへばりついていたモノが剥がれてきた。
ゼセン村と魔王城の位置関係を何とはなしに思い出し、決して近場ではないことを思い出す。ゼセン村の宿屋を待ち合わせ場所にしようものなら絶対に苦労するだろうとも魔王は考えが動き始めた。
そうして、徐々に事態を理解し始めた魔王に、訂正する暇もなく勇者は告げた。
『では、ゼセン村の西入口で、お待ちしてます』
「え、ちょ、ちょっと」
『ああっ、すみません。ちょっと急用が! また後で!』
「だから待て! まだ行くとは」
リプライリングは直後に派手な音を出して沈黙した。
「も、もしもし? もしもーし? もしもーし!?」
そして、リプライリングはうんともすんとも言わなくなった。
魔王は頭を抱えた。
ゼセン村と魔王城の位置関係を考え、今から行った場合、かなり無茶をしないと今日中にたどり着かないことに気付いたためだ。
そもそもゼセン村で人族と拮抗しているのは、お互いに攻めにくい要所だからである。少し小高い山の頂に位置するゼセン村は、村とは名ばかりの人族の砦である。
堅牢な岩と鋼鉄で組まれた城壁に巨大な弩砲、なにより特筆すべきは「
バーバリアン・キャンセラーとは人族の呼び方で、魔族の呼び方は「
それ以前に、魔王城とゼセン村の間には深い谷があり、迂回して行こうものなら数日は必要になる。
魔王は考える。
「(いっそ、空を飛んでいけばいいのでは。
しかし、リプライリングの通信相手やその周囲の者の立場を想像した時、その考えは駄目だと思った。
村の入り口で待ってたら、全長10mの黒い飛竜に乗って待ち合わせ相手が来る……どう考えても滅茶苦茶に目立つ。
そう、魔王もリプライリングの相手も目立ちたくはないのだ。リプライリングの相手が人族に紛れ込む者であるなら、魔族御用達の飛竜が襲来したら元も子もない。
「(自力で飛べば……目立つだろうな)」
魔王は魔術による自力での飛行も(距離と消耗を考えると帰りは絶対に徒歩になる)できるが、やはりそれも目立つだろう。最悪、魔王が討たれるか、ゼセン村を魔王は焼け野原にするだろう。
「(魔王城からゼセン村まで穴を掘る……いや、後処理が大変だ。穴が人族に見つかれば万事アウト)」
案をあげては
「(いっそゼセン村を攻め落とせば……待ち合わせどころではなくなるわ)」
案を却下し
「(ゼセン村に直接瞬間移動を決めれば……距離が遠すぎて石の中に飛びかねない。埋まっても脱出は問題にはならんだろうが、やはり目立つ)」
案をあげては
「(地道に歩くしか……いやいや、もう待ってると言われてるのだから、流石にそれはない)」
案を却下してをくりかえす。
そうして、魔王はある方法を考え付いた。
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