第17話 まだ見ぬ存在

 幼い頃から私の夢は変わっていない。

 私の夢はにいのお嫁さんになることだった。


 そう思ったのが小学生の時で、その時から私は花嫁修業として一部の家事を担っている。


 そんな私には最近不満がある。


 それはにいを起こせなくなったことだ。


 最近のにいは早起きをするようになった。

 私が部屋に行って起こそうとする時にはすでに起きているのだ。


 にいの寝顔を見ることが毎日の楽しみだった、私にとって本来なら喜ぶべきことなのだそれは非情に残念なことである。


 他にも変化がある。


 勉強嫌いで有名なにいが、机に向かう時間が増えたのである。


 いったいどうしてしまったのだろうか。

 にいは頑張っていた。

 勉強を頑張るのではない。それも頑張っているのだが、…そうではないのだ。

 そう、模範的な?というか、優等生になれるように…これも違う。

 分からないけれど、とにかく頑張っているのはわかった。


 もちろん私は今までの少しだらしないにいも好きである。

 けれど、頑張っているにいもカッコよくて好きだった。


 …だけど複雑な思いだ。

 少し眺めていると、何のために頑張っているのかわかってしまってからだ。

 あきらかににいは誰かのために頑張っていた。

 そしておそらくにいを変えたのもその人。


 頑張っているにいはカッコいいけれど、にいを変えたのが私じゃないと考えると素直に応援できなかった。

 にいは私のために頑張っているのではない。


 そう考えてしまう私は酷い女なのだろう。


 私はそれを自覚しながらも悟られないようににいの部屋のドアを開いた。


「にい紅茶とサンドウィッチ」


「ああ、ありがと。最近悪いな」


「大丈夫、頑張って」


 そう言って私は部屋を出る。


 大丈夫だっただろうか。

 気付かれていないだろうか。

 私はそんなことを考えてしまう。


 にいが頑張れば頑張るほどに私は醜くなっていくような気がする。


 はぁ…


 にいを変えた人が羨ましい。

 その人はどんな人なのだろうか。

 男だろうか?女だろうか?


 女だったらそれは先生だろうか?生徒だろうか?


 生徒ならどんな関係だろうか?


 そこまで考えてそれ以上はやめた。

 頭がおかしくなりそうだ。


 それに頭では薄々気付いている。


 私はまだ見ぬ敵の気配を察知して危機感とそして焦りを覚えた。


 …私のために頑張ってくれていたりしないかなぁ。

 今までの推測は全部不正解で、私のために…なんてね。


 この花嫁修業が無駄にならないためにも私こと咲はどこぞの馬の骨かも分からないやつに負けるわけにはいかないのだ。


 誰にも気づかれない場所で、すでに戦いの火蓋は切られていた。

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