第14話 崩壊の時は近く、世界は残酷と知る

 誰かを選ぶということは、誰かを選ばないことと同義である。


 これはいつかの出来事。

 過去か、はたまた未来か。


 一人の女性が泣いていた。

 叫びながら、彼女の涙は留まることを知らない。

 決壊した堤防から水があふれるが如く彼女の涙があふれる。


 彼女は何かを呪うような、そして恨むようなに空を見る。

 世界はまるで彼女と共鳴しているかのように大粒の雨が降りしきっていた。


「なんで、なんでいつも姉さんばかりなの?」


 彼女は泣きながら想いを告げる。


「いつもいつもそうだ…苦労は私に押し付けて、幸せは攫って行く…

 ねえどうして?姉さん。私いい子だったよ。いい子にしてたんだよ。

 親の期待は全部私に。期待されない姉さんは自由で、期待された私は敷かれたレールを進むだけ。私に本当の意味で自由なんてなくて、選択肢もなかった…けれど、最後の最後に私は光に照らされた。救われたと思った。

 やっと私も自由だって思えたのに…姉さんは私の唯一の幸せすら奪っていく。

 昔から頑張っている私は心配されなくて、周りから愛されるのは何もしてない姉さんだけ…」


 彼女の口から出てくるとどめることのできない呪いの言葉。


 彼女の本当の気持ちがここにきてようやく明かされた。


 皮肉な話だ。

 彼女はこんな状態になってようやく素直になれたのだ。

 もっと早く、自分に素直になっていてくれればと何度思っただろうか。

 結局俺はまた遅れたのだ。

 気付いた時にはもう手遅れ。


 きっと彼女はこれからの生涯ずっとこの結果を恨み続けるだろう…

 そしてその道の最後に訪れるのは破滅だ。

 決して救いなどない。


 彼女は世界を呪った。


 そして俺は呪う。


 何者でもない自分を。

 目の前で泣いている人がいるのに、何もできない自分の弱さを。


『世界は優しい』


 ふと、つい最近言った言葉を思い出す。

 そしてそんなのは間違いだとさとる。


 世界は残酷だった。


 けれど…それでも俺は思ってしまう。

 思わずにはいられなかった。


 世界は美しいと。


 二律背反。矛盾した想い。


 嗚呼


 時よ止まれ。世界はあまりにもーーーーーー

 ーーーーあまりにも、あなたの世界は私には早すぎた。


 これはいつかの出来事。

 過去か未来か分からない。


 けれど確かに言えることがある。

 それはーーーー

 ーーーーー崩壊の時は近い

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