第9話 殺気を放つ可憐(?)な花
「結、次はこれ食べよ!!」
僕を呼ぶ元気な声。
花に呼ばれて僕は店に入っていく。
そう、吉野結は花と絶賛デート中だった。
なぜそうなったかと言えば時は少し遡る。
一昨日のことだ。
いつも通り?というか最近の習慣になっていた先輩と花と僕の勉強会をしていた。
勉強会は筒がなく終わったのはよかった。
しかしその後だ。
「結って土曜暇?」
唐突に花がそんなことを言ってきた。
○○暇?と聞かれたら、大概何かに誘われるというのは予想でいきる。
土曜日か…新作出るんだよな…ゲームの。
普段なら、何も思わず暇と答えていたことだろう。
けれど今回はタイミングが悪かった。
僕はどうしてもゲームがしたい。
新作なんだ。めっちゃ面白そうなんだ。
だからごめんよ…と言いたかった。
流石にゲームを理由にするのはどうかと思ったので、とりあえず予定があると返事をした。
「…土曜か…用事があったような…」
「そう、暇なんだ。じゃお昼に駅集合ね」
「えっ?話聞いてた?」
んっ?僕は確かに曖昧にだけどあると言ったぞ…言ったよな?
「どうせゲームかなんかでしょ?」
いや、まぁそうなんだけどさ。でもなぁ~
「ふ~ん。嫌なんだ、私と過ごすの」
僕が何も答えないでいると、なんだかおかしな方に話を持っていこうとしていた。
「…嫌ってわけじゃないけど…」
「私とゲームどっちが大事なの?」
なんだその
私と仕事どっちが大事なの的なそれは。
もちろん答えなんか決まってるじゃないか
「ゲー」
ムだよ…と言おうとした。
しかし最後までいうことは出来なかった。
感じるのだ、殺気を。
それはもう感じる。それだけで人殺せるんじゃないかと思うほどに感じる。
…ちびりそうになったのは内緒だ。
ものすごい殺気を放ちながら花は言う。
「悲しいな。約束は破られるし、結にとって私はゲーム以下なんだね…ごめんね無理に誘っちゃって」
僕は出来ることなら今すぐ逃げ出したかった。
しかし、逃げだしたら最期、僕は殺されるような気がしたので、逃げ出すことはなかった。
僕は一瞬の間で、返答の最適解を導き出す。
「べっ、別にそんなこと思ってないよ。うん本当だ。ゲームと花を比べたらどっちが大事かって、そんなの花に決まってるだろ」
「へぇ~そうなんだ」
「そっそれに、なんだか用事もないような気がしてきたな~なんてハハッ…」
「そうなの!!じゃ、さっき言った通り駅集合でいい?」
「ハハッ、もちろん。あぁ~楽しみだな~」
僕の返答は間違いでなかったらしい。
僕は生きて帰れることを喜びながら帰宅した。
と、そんなことが一昨日あった。
そんなことで僕は、デートもとい買い物に付き合わされていた。
どうやら今日はただのデートではなかったらしい。
花は美術部に所属している。
今日は何やら部活で使う画材を買いに来たとのことだ。
なら一人で行けよ。
と思うのもつかの間、持たされたものはとても重かった。
その量もさることながら、一つ一つの重量もそこそこにあるのだ。
そりゃ一人じゃ大変か。
今は買い物も終わり、最近はやりのスイーツ店などを巡っていた。
「ねね!!これすごくおいしい!!」
花は今日ずっと機嫌がよさそうだ。
ゲームができなかったのは残念だが、花の笑顔を見ていると来てよかったなと思える。
…まぁゲームなんていつでもできるしな。
そんなことを思っていたら、
「ほらあ~ん」
「は?」
してきた。
…なんでだ?
「なんで?」
純粋な疑問だ。なぜあ~んをする必要があるのか。
しかもこの店それなりに人気なのか、多くのお客さんがいるんだぞ。
どんな羞恥プレイだよ。
「だって、結がどうしても食べたさそうにしてるから」
「いや、してねーよ」
「そっか、結は私にあーんされるのが嫌なんだ。私は悲しいよーーーーーーーーー」
…また始まった。
一昨日の出来事で味を占めたのか、ことあるごとに花はこんなことを言ってくる。
それだけならまだいいのだが、こうなると長いのだ。
そしてはっきり言って付き合うのがめんどくさい。
しかしここで文句の一つでも言ようものなら、一昨日のような殺気が飛んでくるので、話を延々と聞くか、要求を受け入れるかの二択になってしまう。
話聞くのめんどくさいしなぁ…
「わっかったよ。しますよ。してください。お願いします」
僕はぶっきらぼうに答えた。
「も~しょうがないな~ほらあ~ん」
そういうとフォークをこちらに向けてくる。
僕はそれをぱくりと食べた。
周囲から、クスクスと笑い声が聞こえてくるが、きっとそれは僕たちに対してじゃないだろう。
きっとそうだ…そうじゃないなら僕は消えてしまいたい。
「おいしい?」
「…ああ、おいしいよ」
感想を述べた僕は、反撃を行う。
だって僕だけ笑われるのは不公平だろう。
俺はそう考えながら、花にフォークを向け言う。
「ほら花、これもおいしいぞ」
あ~んは言わない。僕が言っても気持ち悪いだろうから言わなかった。
…いや、フォーク向けてる時点で…
いや俺、考えちゃダメだ。
そんな風に思っていると花はパクリと、小さな口で食べてしまった。
「うん。確かにおいしいね」
そういう彼女は余裕そうで、恥ずかしがる様子もなかった。
そんな花を見ていると、なんだか自分のしたことが馬鹿らしく思えてきた。
「よし、じゃそろそろ帰る?寄っていきたいとこあるならついてくけど?」
「いや、帰ろう」
そう言って二人は店を後にした。
家に帰った後は適当に過ごし、
なんだかんだで今日は楽しかったと思いながら眠りにつくのであった。
ーーーーーーーーー
やばいやばい。ばれてないかな?
西田花はとても焦っていた。
二人で店を出た後、途中まで一緒に帰っていた。
さっきから心臓がすごいうるさい。
聞こえてないよね?大丈夫だよね?
そう思いながら私は隣を見る。
そこに、何も気づいていなさそうな結がいて少しホッとした。
それにしても、今日は楽しかったなぁ。
えへへ。
最初はどんな理由にしようかと思っていたけど、我ながら画材の買い物というのはいい案だったと思う。
私の感じている気持ちを結にも感じててほしいなぁ、なんて、キャ!!
彼女の頭の中はお花畑状態だった。
「それじゃ、また来週」
「うん。またね結!」
そう言って二人は別れた。
ところで余談なのだが、今日二人の行った駅はこの辺の人たちからしたら休日を過ごす定番の場所である。
もちろん二人のと同じ高校生もたくさんいただろう。
きっとその中には同じ高校の人もいたのではないだろうか?
花は知らない。今日誰かに猛烈に嫉妬されていて、それでいて幸せを願われているなど知る由もなかった。
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