第5話 図書室にて
薄々気付いていると思うが、吉野結は帰宅部である。
しかし、放課後は特別早く帰るということはなく、くまやその他学友と駄弁ってから帰るのが彼の日課だ。
その日は、くまと別れたあと図書室にいた。
花に勉強見てもらうにしろ、自分でも少しはやっておかないとな。
今朝花との勉強会が決まった僕は浮かれ気分で、普段しない勉強を珍しくしていた。
そんな感じで意気揚々と勉強を始めた僕だが、開始早々息詰っていた。
…何がわからないのかがわからない。
やばい、ここの公式なんだっけ?…Fって何指してんだ?v₀ってなんだ?
…何もわからない。
と、困り果てること五分。もう帰ろうかなと思っていたところにどこからともなく救いの手が差し伸べられた。
「何かわかんないの?…良ければ教えてあげようか?」
誰だと思い声のした方を向くと、一人の女子生徒がいた。
その時気づいたことだが、図書室には僕と彼女以外いなかった。
唐突に知らない人から声をかけられたものだから、返答に少し困ってしまった。
「あっ、あぁ。そうすね。迷惑じゃなければお願いします」
言い終わってから気づいたが、彼女の制服のリボンが赤であった。
赤は確か三年だっけ?
ていうか、お願いしてよかったのか?まぁ言ってしまったことは仕方ない。
「ふふ、私は三年A組の三宮葵。図書委員だからカウンターにずっといたんだけど、君ずっと教科書とにらめっこしてたからつい声かけちゃった」
どうやら、ずっと困っている僕を見かねて声をかけてくれたみたいだ。
…なんて言い先輩なんだ。
「僕は二年C組の吉野です…そんな困ってるように見えました?」
「ええ、とっても」
ふふ、なんて言いながら先輩は答えた。
先輩のは長めの髪を結ばずにストレートにしていた。
そして、お淑やかな雰囲気と相まって、大人のお姉さんという印象を持つ。
あと、普通にかわいい…というか美人?
肌は白くてとても綺麗で、スカートからのぞく太ももからは無限のコスモを感じる…
そんな物思いふけっているたら
「…ところで分からないとこはどこ?」
と聞かれた。
いかんいかん。先輩がかわいいからって邪なことは考えるな。
吉野結も男の子である。そうゆうお年頃なのだ。
「…物理なんですけど、もう何が何だかで…」
「そう。まぁしょうがないよ。物理は難しいもんね」
そういうと先輩は丁寧に教え始めた。
先輩の説明はわかりやすく、教師よりも教えるのがうまかった。
気付けば、外は暗くなり始めていた。
「ふー、この辺までにしてあとは終わろうか。他に分からないとこある?」
「いえ大丈夫です。先輩の説明上手でめっちゃわかりやすかったです」
「そう。なら良かった。私も復習できてちょうどよかったわ…良ければ明日とかも教えるよ?」
いや~、テスト百点取っちゃうんじゃないかと浮かれていたら先輩はそんなことを言ってきた。
明日も…?
「マジですか?」
「マジ」
「…ならお願いします」
「ふふ、わかったわ、じゃまた明日ね」
先輩はそういうと荷物をまとめて図書室をでた。
最後出る直前に
「明日ね!結君!」
と元気よく言われた。なぜかそこに違和感を感じたが、今の僕にそんなことはどうでもよかった。
良き一日を振り返りながら帰っていると、重大なことを思い出す。
「やべ、花との約束もあるんだった…」
そう、花にも勉強を見てもらう約束だ。
…まぁ、都合のいいときでって言ってたしな。
そんなことを思いながら吉野結は明日のことを考える。
吉野結は鈍感である。そして、幼少期のことはあまり覚えていない。
それが今後の物語にどうかかわるのか、結は知る由もなかった。
ただ一つ言えることは、三宮葵を傷つけてしまう未来は決まっている。
…だって、作者がそう決めたから。
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