第2話 妹に土下座する兄

「ただいまー」


 …誰もいないのか。

 家には誰もいないらしい。

 妹は学校終わってるはずなんだか、遊びにでも行ったか。


 誰もいない家はめっちゃ静かだ。 自分の呼吸の音。足音。普段わざわざ聞くことのないような音を多く聞く。

 そして、自分しかいない家は少し怖い。自慢じゃないか、俺はホラー系は大っ嫌いだ。

 小学生のころ、高学年でありながら漏らしてしまったことがある。家だからまだよかったものの、外だったらどうなっていたことやら。

 ホラー映画が苦手な俺だが、幽霊とかも怖い。 いないと何度頭で言っても、怖がってしまう。さっきからずっと視線を感じるのは気のせいだろうか…

 めっちゃ怖い。

 誰か帰ってきてくれよ。

 吉野結は結構情けないのである。


 着替えた後は勉強もほどほどに、ゲームをする。

 カタカタ、カタカタ。

 キーボードを叩く音だけが部屋に響いていた。

 今やっているのは、最近はやりのバトロワゲーム。

 ソロで後の敵は一人。

 よしっ、勝てるぞ。

 芋プレイが大好きな俺は、敵を発見しスコープで狙いを定める。

 あと少し、…よし今だ!!

 敵の頭を捉え、引き金を引こうとしたその瞬間。


「にい、何やってるの?」


 急に声がかかった。


「ギャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー‼」


 幽霊⁉本当にいたのか?

 僕は目を瞑って土下座をしながら懺悔する。


「どっどうか!命だけは!冷蔵庫にあったおそらく私の分ではないであろうプリンを食べたのは私です!!

 とてもとても反省しています!今後二度とこのようなことは致しませんゆえ、何卒命だけは!」


 僕は早口で幽霊様にそういった。

 頼む!命だけは!

 少しの沈黙の後、幽霊は口を開く。

 沈黙の間も俺はずっと目を瞑ったまま土下座の姿勢でいた。


「…にい、キモイ。」

 幽霊の声はなじみのあるもので、罵倒のセリフは二日に一回は聞くものだった。

 恐る恐る前を向くと、そこに立っていたのは妹の咲だった。

 どうやら僕は、幽霊にではなく妹に土下座していたようだ…


「…なんだ咲か。驚かせるなよ」


「咲はただ声かけただけ。にいが勝手に驚いた。咲悪くない」


 咲の一人称は咲。話し方はどこか淡々としていて、表情はあまり変わらない。…学校で浮いていないだろうか?心配である。


「あと、にいが食べたプリン咲の。楽しみにしてた。買ってきて」


「あぁ、咲のだったのか。悪いな。今度買ってきてやるよ」


「うむ。了解した。咲寝る」


「おっおう。そうか。夕飯になったら起こすからな」


 そういうと咲は頷いて自室に行った。結局咲は何しに来たのだろう?謎である。

 ドアを開けるとき、キィーという音がする。

 …なんだかそれに違和感を覚えるが、僕はゲームをするために椅子に座る。

 画面には、二位という文字がでかでかと映っていた。

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