何者でもない僕
ヨコタワーる
第1話 何者でもない僕と進路希望
中学の時のことだ。
中学の時の僕は何者でもなかった。
物語でいうところのモブだ。
でもモブなのは僕だけではなく半分以上の生徒がそうだろう。
今ならわかる。
けれど当時の僕は、自分だけが何者でもないと思っていた。
将来の夢などなければ、これと言って目立つような特技もない。
成績も中の中。
容姿も優れているかと聞かれれば普通と答えるだろう。
家族は父と母、それに二つ下の妹の四人家族。
ただ平凡。
何か事件も起きることなく、いきなりモテることもない。
そんな、何も起きない日々を僕は退屈に感じていた。
だからというわけではないけど、僕は高校入学前の春休み一人で旅行をした。
親を何とか説得して東京に行った。
田舎民の僕にとって一人で新幹線に乗り東京に行くことは大冒険で大人になった気分だった。
なぜ東京?と聞かれたら僕は何となくと答える。
東京に行くまで僕はいろんな期待をしていた。
劇的出会いとは言わない。けど、僕に何かきっかけをくれる人やものとの出会いはあるかもしれないと。
けど実際は劇的な出会いもなければ、ささやかな出会いもなかった。
確かに東京には多くのものがあったけど、僕を変えてくれる…何者かにしてくれるようなものはなかった。
僕の大冒険は、何の成果も得られず幕を閉じた。
その後、なあなあに生きた僕は県内でも平均的な偏差値の高校に通学している。
語り終えて僕は目の前にいる男に感想を求めた。
「へー、で吉野は進路希望なんて書くんだよ」
「…なんかさ、感想とかないわけ?こう、なんかさ、感想くれよ。プリーズ感想」
求めたのだが彼は答えてくれなおようだ…乗りの悪い奴め。
「進路希望提出今日までだぞ。また白紙で出すのかよ」
彼はこの話をスルーするらしい。まったく仕方ない。
悩める思春期特有の思いを彼は感じられなかったのだろう。
これだから脳筋は。
「おい、なんか失礼なこと考えてないか?」
「いやべつに…というか進路希望どうしようなー」
さて、進路希望なんて書こうかな。
前回は白紙で出したし、さすがに二連続白紙はまずいな。
「くまはなんて書いたんだよ」
「俺は、いうも通り同じとこ書いたよ」
改めて僕は目の前の彼について思う。
ギャップがすごいなと。
身長188㎝。細身ではなく結構しっかりした筋肉。いかにも柔道部というこわもての顔なんだが、あだ名がくまとは。
苗字が熊田であだ名がくま。
たまにくまさんと呼ぶとこいつはすねる。
何がだめなんだ。かわいいぞくまさん。
…そんなことは置いといて。
「どうしよう進路」
「しらん、時間だから部活いくは。じゃあな」
さいなら。彼は行ってしまった。一応友達であるはずの僕を置いて。
まぁいいか。
僕もか帰ってゲームをしなくては。
確か今日は新キャラが出てたはず。
ゲームのことを考える僕に、もはや進路希望のことなど頭になかった。
まあ、明日出せばいいだろう。
そう思いながら僕こと、吉野 結は帰るのであった。
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