番外編4 ハロルドとアイザック(BL)
❖ご注意ください、BLです。
ネット書籍化記念、数日限定の投稿になります。
生まれて初めて彼女ができた。
積極的な彼女に押せ押せでこられて、彼女の家に連れ込まれて、あれよあれよと言う間に、初キスからの初H。展開は無茶苦茶早かったけれど、彼女は可愛かったし、おっぱい大きかったし、そういうことに興味もあったし、気分的には「ありがとうございます!!」って感じで飛びついた。
まぁ、彼女じゃなきゃ駄目ってほどまだ好きにはなっていなかったけれど、付き合ううちに好きになればいいし、それは向こうだって同じだろうから、気軽にお付き合いをすることにした。
でもさ、ちょっと……かなり、面倒くさい。自分は付き合うとかに向いていないタイプなのかもしれないって、初めて悩んだよ。
ってか、こんな感じで付き合ってたら、ナンシーに悪いんじゃないかって思わなくもない。
何度か体を重ねたけれど、やっぱり気持ちが盛り上がることがなくて、たまに「こいつ、浮気してね?」って思うこともあったりもした。巡回中に、男と腕を組んで歩いているの見かけたり、家になんとなく男の残り香があったり。でもさ、騎士の仕事は忙しい上に休みとか不定期だし、向こうが会いたい時に会ってあげられなかったらするからしょうがないのかなって、特にナンシーに言及したりはしなかった。
たまに会えば楽しく過ごせたし、恋人ってこんなもんかなって思ってた。女子の体は柔らかくて気持ち良いし、アイザックと唯一できない話っていうか、アイザックは彼女とかできたことないから、アイザックにも彼女ができればそういう話も気楽にできっかなって思ったんだけど……。
なんだかな、いざ目の前でアイザックと女子が話しているのを見て、しかも女子がかなりアイザックにベタベタしてて……。
無性にイライラした。
ガキの時の友達はともかく、学園とか騎士団とかでは、アイザックはそこまで踏み込んだ親友とかは作らなかったし、ハロルドが一番の親友で、アイザックの中で自分が一番だって思っていた。だからか、「俺のアインに気軽に触んなよな!」とか、つい言いそうになってしまった。
俺の……俺のってなんだ?
「ルディ。あれ?キャシーとアインは?」
長いトイレから戻ってきたナンシーは、化粧を直していたのか、いつもよりもかなり化粧濃いめで戻ってきた。しかも、胸元がエグイぐらい開いている。
「あー、なんか別行動するとかで出て行った」
「ハァッ?!どうして勝手に行かせたのよ?あの娘、男癖が悪いっていうか、色んな男を取っ替え引っ替えしてんだから」
「いや、おまえの友達だろ?そんな言い方……」
「絶対に今頃家に引きずりこんでるから!キャシーなんかにアインを取られるとかあり得ないんだけど!アインには私が……!」
そこまで言って、ナンシーは慌てて口を押さえた。
アインには私が……って、化粧を濃くしたのも、下品なくらい胸元を強調したのも、アイザックを狙ってってことか?
アイザックがおまえなんか相手にするかよ。
そこまで考えて、他の男に色目を使おうとしていた彼女に苛ついたのではなく、アイザックが狙われたことが嫌だったんだと気がつく。今も、アイザックがキャサリンにどこに連れて行かれたのか、気になってしょうがない。もし本当にキャサリンの家にお持ち帰りされたのなら、どうにかして助け出さないとだ。
居ても立っても居られなくなったハロルドは、まだ食べ物も残っていたが席を立った。
「とりあえず、今日は解散しよか」
「ハァ……、まだ食べてないんだけど。それに、今日は家に来るんじゃないの?」
そんな場合じゃないだろう。アイザックの貞操の危機なのに。
「今日は止めとく。とにかく出るよ」
ハロルドが席を離れたので、ナンシーも渋々席を立った。会計は、キャサリンに引きずられつつも先に出たアイザックが今までの分をしていってくれたようで、会計なく店を出ることが出来た。
「キャシーの家はわかるか?」
「知ってどうするのよ。今頃最中だから、邪魔なだけよ」
最中……。
ズキリとハロルドの胸が痛んだ。自分だって、彼女を作って気持ち良いことをしてきたんだから、アイザックだって……。それに、キャサリンに引っ張られたからって、本当に嫌ならばいくらだって振り解けるだろう。もしかしたら、アイザックもその気だった……なんてこと。
キャサリンに押し倒されて襲われているアイザックを想像したら、頭がグワングワンしてきた。
「ごめん……、俺帰るわ」
「ちょっと、ルディ?!」
まさか本当に帰るとは思っていなかったんだろう。ナンシーの叫び声を聞きながら、ハロルドはトボトボと騎士団寮の方向へ歩き出した。
★★★
その頃のアイザックは、キャサリンの家の前まで来ていた。というか強引に引っ張られて来た。
「ね、うちで飲みなおそ」
「いや、ごめん。明日も早いから」
さり気なく、キャサリンの腕を剥がしつつ、アイザックは嘘をつく。明日は夜勤だから出勤は遅いのだが、そんなことを言ったら、問答無用で部屋に連れ込まれそうだったからだ。
「別に、私はナンシーと違うから、一度Hしたくらいで彼女面しないよ」
「いや、ごめん。そういうの本当に無理で」
「気軽にすればいいじゃん」
「気軽も無理」
「じゃあ、重めならいいの?付き合うとかそういう系」
「ごめん、君のことはそういうふうには……」
キャサリンは、怒るかと思いきやケタケタ笑い出した。
「ヤバイ、ウケる。秒でふられた。アインって、クソ真面目で正直ね。ただでやらせてあげるっていうんだから、適当にやっときゃいいのに。まぁいいわ、はい、じゃあ解散。また機会があったら飲みましょ」
今までの強引さはどこへやら、キャサリンはアイザックから手を離すと、くるりと向きを変えてアパートの扉の中に消えた。
思った以上にすんなり開放されて、アイザックは心底ホッとした。しかし、今頃ハロルドは……と考えるとどうにも気分が落ちてしまう。
「離れた方がいいのかな……」
今まで、ハロルドと一緒にいる為に努力もしたし男らしく振る舞ってきた。しかし、アイザックの性格からして、男臭い騎士団の生活は向いていなかった。本当は可愛い物や綺麗な物が好きで、そういう小物を扱う店か花屋に憧れていたのだ。
しかし、いきなり騎士団を辞めて転職したとしても、王都にいたらハロルドと離れることはできないだろう。一番手っ取り早いのは、辺境にでも移動願いを出し、そっちで生活基盤を築けたら、除隊して小さな店でも持つのが良いかもしれない。
そんなことを考えながら夜道を歩いていたら、騎士団寮の前まで来たらハロルドが立っていた。
「アイン!」
「ルディ……なんで?」
走ってきたハロルドが、アイザックの首にガシッと腕を回した。
「なんだよ。お持ち帰りされなかったのかよ」
「されないよ。家まで送って帰ってきた」
ハロルドは、ご機嫌な様子で満面の笑顔になる。
「そっか、そっか。だよな!アインはそんなにお気軽じゃねぇよな」
「まぁ……ね。ルディは彼女はどうしたの?」
ハロルドは「うーん」と頭を掻く。ナンシーは店でも不機嫌な様子を隠さずに態度が悪かったし、ハロルドからしたら珍しいが喧嘩になったのかもしれない。特に聞きたい話でもなかったので、アイザックは言葉を濁すハロルドを問い正すこともなくスルーする。
「そうだ、ルディ。僕さ、辺境に転属願いを出そうかと思っているんだ」
寮の扉を開け、ハロルドを先に通しながら、アイザックはさもなんでもないことのように話を切り出した。
「は?初めて聞いたぞ」
「うん、初めて言ったからね」
「辺境かぁ……うーん……辺境ねぇ。まぁ、いいんじゃないか?腕試しじゃないけど、辺境は手柄もあげやすいし、手っ取り早く階級を上げるのには適しているかもな」
アイザックが辺境に移動になったら、ハロルドとのペアは解消になるし、もっと積極的に止められると思っていた。アイザックが思っていたよりも、ハロルドにとってアイザックの存在は軽かったようだ。
「そうか……。ルディに賛成してもらえて良かった。おまえなら、すぐに新しいペアとも上手く行くよ」
アイザックは、なるべく声をはって、落ち込む気持ちを出さないようにした。若干足早になってしまったのは、泣きそうな顔を見せたくなかったからだ。
「は?何言ってんだよ。俺はルディとペアは解消しないぜ」
「いや、だから、僕は辺境に……」
「もちろん、俺も行くに決まってんじゃん?辺境たって、東西南北、色々あんだろ。アインはどこの騎士団狙いなわけ?俺的には、北は嫌だな。寒過ぎるから。南とか楽しそうだけど」
「待って、待って。ルディは駄目だろ。おまえは騎士団で期待されてるんだから」
ウッド子爵家は家格は高くないが、多方面における突出した才能から、王家に覚えが良い家柄だった。ハロルドの兄弟達も皆要職についており、ハロルド自身も騎士団でかなり期待される新人だった。
「武者修行?全然余裕でしょ」
「いやいやいや、絶対に却下されるよ。それに、彼女はどうするのさ?あの娘に遠距離は無理だろ」
「まあ……なんとかなるよ」
浮気されまくる未来しか見えない。多分一ヶ月で破局だ。アイザック的にはそれはそれで喜ばしいが、ハロルドから離れたくて辺境勤務を志願しようというのに、ハロルドがついてきてしまったら意味がないではないか。
「なんともならないよ」
アイザックは自分の部屋までくると、ハロルドを部屋に引っ張り込んだ。こうなったら、自分の素直な気持ちを告げて、距離を置きたいということを理解してもらうしかない。
「なんだよ。部屋飲みか?明日は遅いから別にかまわないけど、なら部屋からワイン持ってくるぜ。この間、家からくすねてきたやつがあるんだ」
「飲まない。真剣な話だ」
アイザックがベッドに座ると、ハロルドもその横に腰を下ろした。
「なんだよ。転属の話よりも真剣な話か?」
「ああ……。僕が辺境に転属しようと思った理由だよ」
アイザックは手をギュッと握りしめ、うつむいて話しだした。
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