第23話

ムラクモへのダイエットは運動とヘルシーな食事、毎日の温泉、顔の毛は定期的に剃って、肌は朝晩クズポローションで保湿というのを半年続けたものだった。


基本方針はマダムも同じだ。運動とカロリーを抑えた食事。そして肌や髪の毛を清潔にすること。


そんなわけで、まずは食生活の改善をメイドたちにお願いをした。話を聞けばかなりのカロリーオーバーな食生活だったからだ。ヒューマンの貴族みたいな肉とお菓子の食生活は、まあ体型から想像出来てはいたが。




「この、ユドーフって言うの、スッゴク美味しいわ! 」


「トーフにかかっているポン酢と言うソースも美味しいわ。柑橘とこれは―――以前教えてくれた豆のソースかしら、これが堪らなく合いますわね。」


「ミソシルと言うエルフの島スープも美味しいだけじゃなく、ヘルシーなのよね。具材が野菜とトーフだけなんだもの。」




リュウが振る舞った豆腐料理は、マダムたちの好みにバッチリ合ったらしい。まあ、お年がお年なので脂っこいのが重くなる頃だったようで。


マダムたちはただ単にステータスとしてヒューマンの貴族の真似をして肉やら脂っこい料理を食べていただけで、あまり好みじゃなかったのだろう。


豆腐だけではなくサチコさんの島料理―――ほぼ和食なんだけど―――は、たちどころに裕福層のドワーフたちの流行りになっていた。






そして、運動だが―――




「ラジオ体操にしてもエアロビにしても、やっぱり音楽ないとねえ。」




まず走れない、ほとんど運動したことないマダムにはラジオ体操から始めようと考えた。


ラジオ体操のために我が家の採掘チームにちょっと本業を休んでもらい、リオとヨータに三味線とギターの中間のようなドワーフの弦楽器を持たせ、ヨシにはリズムをとって貰うために木箱を叩いて貰い、BGMを生演奏してもらうことにした。ピアノみたいな楽器はユキホムラにはないため、しかたなしの弦楽器だった。


イヨの記憶にあるラジオ体操の曲や動画サイトでやっていた二週間で10キロ痩せる体操の曲、身体を動かしたくなる軽快なリズムの曲を鼻歌で聞かせて、三人に演奏して貰うのもたいへんであった。なんせうろ覚え。細部は創作も入ってなんとか数曲の体操が完成し、マダムとその友達(似た体型の女性たち)に指導する。もちろんジャージ着用である。背中にはジャージーゴブリンダイエット!と書いてある。もはや制服……いや、体操着である。




バンドマンにファンがつくように、音楽を奏でるイケメン兄三名への会いたさでマダム達がサボることなく通っていただけるのは副次的効果だった。


ときおりリップサービスで「頑張って下さい」「効果がでて美しくなってますね」など言わせたのもよかったのかもしれない。


うっかりイヨがうちわにファンサを求める文字を書く文化をもちこんだために、アイドルのコンサートみたいになってしまったが。兄たちもノリノリでファンサに答えていたし、まあいいか。ときめきも肌艶がよくなる効果があるって言うし。


もちろん採掘の休業補償に、ムラクモに三人へのボーナスも弾んで貰った。ロックローズタワーでの仕事はめっちゃ儲かっていたので報酬も凄かった。予想以上の高収入に兄たちの頬は緩みっぱなしで、もしかしたらこっちが本業になりそうな感じだ。




体操のために、マダムの財力で大きな鏡を設置したスタジオをロックローズタワー内に設置。


スタジオの隣には朱い森の温泉のお湯を、バカ高い転移魔法の魔方陣で転移させて掛け流しする風呂場ができた。体操して温泉で汗を流すを毎日くりかえす。






そして、肌と髪の毛には蜂蜜とクズポーション。


まず二度見しちゃった紫メッシュのおばちゃんパーマに対しては、蜂蜜酒ミードトリートメントを髪の毛にたっぷりつけるのを毎日行った。


数日のうちにメッシュはそのままで、肩よりすこし長いゆるふわの愛されパーマに。マダムは「どんなに梳かしても伸びなかったのに! 奇跡よ! 」と神に感謝するほど喜んでいた。そんなにおばちゃんパーマいやだったのね。ものすごいお似合いではあったのだけど。


この世界の蜂蜜は魔物から採れるからか、それだけでポーションのような効果があると言う。おかげで輝くような艶と滑らかな指通りの髪は話題になり、マダムのお友だちのセレブリティを呼び込む一端となった。




そんな蜂蜜とクズポーションを混ぜたもので、マダムたちの身体をオイルマッサージして貰った。


イメージはエステだ。器用なメイドの一人がなかなかのテクニシャンだった。イヨの拙い説明をすぐに理解し、地球のエステマッサージの再現となった。再現どころか、いくらポーションだとしても効果が予想以上で、メイドに魔法を使用してないか確認をしてしまうほどに。


エステマッサージで血行をよくして、末端から中枢までマッサージすることで浮腫を取るだけのはずが、予想以上にマダムたちの体つきはほっそりスッキリしたものにしたのだった。






蜂蜜とクズポはヘッドスパでも、ビックリするくらいの効果を出した。


おでこのシワやフェイスラインのたるみは、実は頭皮のたるみが原因と言われている。頭の先から顔まで一枚の皮膚でつながっているので、頭皮がたるむと顔周りの皮膚が下がったり、おでこにシワができるらしい。だから、頭皮をキュッと引き締めるヘッドスパは、リフトアップ効果やシワ、たるみの予防にもつながる。ちょっとシワやたるみのあったマダムたちの顔は、ヘッドスパにより10歳以上の若返りしたくらいにシワもたるみも減っているのであった。




さらにカイのカミソリで身体中のムダ毛を剃り、クズポのローションを毎日肌に叩き込めば、最初の予想以上の出来。エステティシャンメイドが本人も届かない全てのムダ毛を取り除いてくれる。


肌艶ツルツルピカピカの妙齢のドワーフは、ヒューマンの貴族…いや、エルフにも劣らない美しさになった。






そのうちロックローズタワー高層階に、魔女の大釜リュウの店で修行したメイドが暖簾分けした食事処が開店し、風呂場の1区画に蜂蜜酒ミードトリートメントとクズポーションを使ったエステができた。


上記のメイドがトップとなり、気がつけばテクニシャンなエステティシャンが増殖していた。


また、カイのカミソリやシンの道具で絞ったオイルを使った顔剃り専門の理容室を作り、ジャージなど運動用の衣服を売る店が出来るなど、まるで総合施設のような状態に。


ロックローズタワーに通えば美しいドワーフになれると噂に噂をよび、大盛況になっていた。






もちろん、その全てにイヨが関わった。


いつまでも個人でいるわけにはいかず、マダムの出資のもとムラクモと共に新しく会社を立ち上げる。総合美容会社ビューティーローズ。出資者の意向を汲みすぎた会社名になってしまったが。


あまり男女の性差のないドワーフの世界ではあるが、女社長はあまり多くないしさらにこの若さは珍しいのか、いくつかの新聞社や雑誌社のインタビューに答えるなど会社経営以外にもイヨは大忙しであった。








そして、一年ほどかけてマダム・ローザンヌは美しく変身した。


ただ痩せただけでなく、出るところは出ており健康的なまろやかな体型になっていた。姿勢も良くなったからか、年齢よりもずっと若く見える。


それだけではなく、肌も髪の毛も目映いばかりに輝いていた。


美しくなったマダムは前世でなんとか姉妹とか言われていた芸能人のお姉さんの方に似ているような、派手系の美人だった。


また、マダムの取り巻きドワーフたちも、もれなく美しく変身した。




インフルエンサーであるマダムたちが雑誌や新聞のインタビューに答えるようになり、彼女たちがビューティーローズの宣伝塔になるころ、イヨは少しだけ暇になった。






そんな時に、思ったより大物からの呼び出しがあった。綺麗になりたいという依頼で。


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