第21話
「あー、失敗したわー。せっかくくすねてきたのにまだ若くて飲めるもんじゃなかったわぁ…。」
ガラガラした声がして、露天風呂からシンが酒瓶を持って現れた。
赤ら顔で頭にはタオルを巻き、ジャージでがに股でやって来る姿は前世でみた酔っぱらいオヤジで少し笑える。
風呂場で一杯やろうとして、持っていった酒に問題があったようだ。
「シンちゃん、なに持ってきたのー? 」
ヨシが問いかける。
「これ、これ。オヤジの隠し酒! 」
「キラービーの
「奥のほうが古いんかと思って………。コレ、全然酒になってなかったわ。いつも手伝ってるヨシに聞いてから持ってくれば良かったわ。」
ぶつぶつ言うシンを見ながら、ふと思い付いたイヨは「あっ! 」と声をあげる。
「シンちゃん、ちょっと頭とその瓶貸して! 」
「え、まさか。」
「な、ちょ、待っ――」
にんまり笑ったイヨは
前世で、オーガニックにハマってた友人が蜂蜜シャンプーを使っていたことを思い出したのだ。
彼女が言うには、蜂蜜には水分の蒸散を防止するエモリエント効果――つまりは保湿性――を持っているから蜂蜜シャンプーをすることでしっとりした髪になれるとか、蜂蜜には殺菌作用だけでなく抗炎症作用もあるため、頭皮のかゆみや炎症に対しても良い効果が期待でき、頭皮の健康がよい髪の毛に繋がるとか言っていた気がする。
オーガニック専門店に連れていかれたときにいろいろ説明を受けたけど、値段見て「私にはむりやん」となにも買わずに帰宅した思い出だ。
ああ、もう少しオーガニックとか聞いていたら、今に活かせたかもしれないが――だってオーガニックってお高いんですもの。
そういえば彼女の実家は金持ち極太だった。
再び温泉まで戻って
前世の友人の髪もうるつやだったが、それ以上の美しさは異世界の蜂蜜だからだろうか。キラービー見たことないけど、名前からして強そうな魔物だしその蜂蜜の効果もすごいのかもしれない。
シンの広がったごわごわの痛みきった髪の毛は、ほどよいボリュームでまとまりが良くなり、そして光を浴びるときらきらと輝くような天使の輪が見える。薔薇色に染まった頬と童顔、形のよいアーモンド形のまるい瞳に相まって幼女のような愛くるしいドワーフがそこにはいた。中身はがさつなおっさんドワーフのシンではあるが。
髪の毛は額縁であると言った人がいた。
どんな名画も貧弱な額縁では価値が下がると。素人絵でも素晴らしい額縁に納めれば、よい作品に見えてくると。
それは言い過ぎかもしれないが、プリクラで可愛く映るのは目が大きくなるからではなく、髪と肌がきれいに修正されるからなんだそうな。髪って大事。
まあ髪がパサパサだったりすると見た目的に疲れて見えるし、ゴワゴワ広がっていると弱々しい印象になってしまいがちだしね。
サラサラしてうる艶した髪の毛になっただけでも"若い""キレイ"って印象になりやすいようで。
気がつくとその場にいたドワーフたちは、
キラキラつやつやした髪の毛は高級な魔蠶の糸よりも美しく、肌や表情も含めて輝いていた。めっちゃ眩しかった。
やべえ、アイドル並みになってきたけど、大丈夫か?
またドワーフのマダムたちにきゃーきゃー言われちゃうんじゃないの?
もちろん、イヨも
いや、当社比で、自分史上最大のうるさらきらきらな絶好調な髪質なんですが。
□■□■□■□■□
「―――イヨさん、ちょっとお願い事が。 」
みんなが
先程までイヨの鏡を覗き込んで深刻そうな顔していたのに、やけに晴れやかに見える。
その表情は
「マダム・ローザンヌに会っていただきたいんです。」
「マダム? ローザンヌ?? って、誰? 」
「知らんのか? 結構な有名人やで。ビワガタケイブで一番の金持ちや。」
隣で寛いでいたシンが言う。そこから冷えた魔牛のミルクを飲んでいたヨシが話を引き継いでいく。
「中心部の西側にある岩のオーナーだよ。ロックローズタワーって名前の。近隣の村にも幾つか物件を持ってるみたいだね。元は採掘王といわれたドワーフ・マンロックの財産で建てた岩で、その一人娘が後を継いだローザンヌ。有り余る財力でいろんな事業を展開してるから有名人だよね。ちょっと前に岩都で流行ったジュースバーの仕掛人とも言われてる。」
岩というのは、ユキホムラのドワーフたちのマンションとでも言うべきか。そのオーナーはドワーフに少ない魔法使い達が高級マナポーションをがぶ飲みしながら土魔法を駆使して、岩マンションを建築させる財力が必要になる。
都に隣接した地区の中心地に建築したというところからも、ずいぶんと金持ちである。
ちなみにロックローズタワーは高級住宅岩としてブランド化しているとイヨは記憶していた。
「流行に敏感なドワーフって聞いてるよ。いや、流行を作ってるとも言うかな? うちの店にもお忍びで来てたな。島豆腐料理が気に入ったみたいで、ロックローズのメイドがよくテイクアウトしてくれる様になったよ。その繋がりで結構セレブがうちの料理を贔屓にしてくれるようになって、経済的に嬉しいんだよねえ。」
リュウも話を続ける。
いわゆるインフルエンサーってやつかな、とイヨは前世の言葉を思い出す。
「で、そんな、お金持ちのドワーフに何で会うの?」
「今、私の商売において、一番お世話になっているのがマダムなんですが―――」
ムラクモが言うには、ローポーション自体はそれほどコストがかからなかったが、女性の目を引くためのおしゃれなポーションの入れ物作成や宣伝費などのコストについてはムラクモの手持ちでは難しかったため、マダムに出資して貰ったそうだ。つまりはスポンサーってことか。
「マダムは美容に並々ならぬ関心があるだけではなくて、ええっと、まあ、イヨさんならお会いしたら分かると思います。」
「??? 」
よく分からぬまま、イヨはセレブリティな人物と会うことになったのだった。
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