第19話
豆乳。前世でよく飲んだ飲み物。
島豆もそういえば、前世でよくみた大豆にそっくりだった。
「凄い! よく知ってるねえ。小さいのにおにいちゃんにくっついてたくさん勉強してるんじゃねえ。島以外だとあまり知られてないけど、魔牛の乳みたいに飲むこともあるんじゃよ。」
今の知識じゃないけどね、と声に出さずにイヨは曖昧に笑い返す。
前世では豆乳イソフラボンで胸が大きくなるって聞いてから、毎朝飲んでいたなあ、とイヨはささやかな胸に触れる。
リンゴ酢と蜂蜜を入れたり、きな粉と黒蜜入れたり工夫して毎日飲んだけど、全く育たなかったな……。
現世もぺったんこだから、イソフラボン必要な気がする。
でもドワーフでも、イソフラボン効くのだろうか?
「冷めると絞りづらくなるんで、温かいうちにやけどに気をつけながら絞らなあかんね。冷めてきて、手でも触れる状態になったら、こうやって両手でも絞れるようになるが、手早くじゃな。で、絞りきった残り滓も違う料理に使えるから捨てずに取っておくんじゃよ。」
サチコさんのてきぱきとした動きもなんだか魔法のようで、瞬く間に豆乳(絞り汁)とおから(布に残った島豆の搾りかす)に分離された。
おからは魔方陣の描かれた箱にしまって、同じ箱の積み上がった壁際に同じように積み上げられた。つまり箱の積み上がったそのスペースは
「島豆乳は魔牛の乳とは違って、ちょっと飲みにくいから飲むならば工夫が必要じゃね。でも、今日は違うものを作るからね。島豆乳は鍋に入れてぬるく温めるよ。ぶくぶく泡が出ちゃダメだ。小さな泡が出始める所より温度を上げないように気を付けて…温度調節がキモだから、よぉく見ておくんじゃよ。」
魔導コンロに人差し指を向けて、細かい魔法の調節をする。調節が上手くサチコは魔法の
そんなサチコの動きを食い入るようにリュウが見つめている。
リュウの手元の板には、サチコさんに言われた事すべて漏らさずに記されていた。
家ではふざけてばかりで、ふにゃふにゃ笑ってるリュウしか見たことないが、そこにいたのは真剣な料理人だった。
「島豆乳を温めている間に、【海の滴】をぬるま湯で溶いておかなきゃね」
サチコの背中側にある食材の中から、天井辺りにくくりつけられた俵の側へ向かう。俵に棒が下向きに突き刺さっており、その先には硝子のポーション
「【海の滴】ってのはなんですか? 」
「島の塩から滲み出た滴というか……、俵に島の塩が入っているんだがそこに棒を突き刺しておくとこの容れ物に滴が貯まってるんじゃ。まあ、この料理に欠かせない材料さね。ぬるま湯に【海の滴】を溶いて、温めた豆乳にゆっくり混ぜていくよ。混ぜすぎると固くなってしまうから気を付けるんじゃ」
にがりかな?――と、イヨは心のなかで呟く。
前世でにがりなんて見たことがなかったから、想像でしかないが、おそらく作ろうとしているものから推測した。
サチコが【海の滴】をしゃもじなどにかけながらゆっくりと流し入れ、ゆっくり2~3回静かにかき混ぜた。
「あとは鍋に蓋をして、半時ほど蒸しておくんじゃ。温度が低すぎると固まりが悪く白く濁ったようになるから、その時はとろ火にして徐々に温度を上げねばならん。液体の濁りがなく透き通るようにするのがポイントじゃよ。」
「半時ほど、と。温度といい、時間といい、きっちりしないと失敗しそうですね」
「まあ、慣れるまでは固すぎたり柔すぎたりするかもしれんが、リュウちゃんならすぐ出来るようになるさ。ちょっと難しい島味噌も、あっという間に作れるようになったしの。」
「はあ、そうですかねえ…。」
「リュウちゃんにはバッチーンとサチコの太鼓判を押すさ。最高の料理人だってね! さあさあ、島豆乳が固まっている間、木箱に晒し布を敷いていくよ! 」
サチコはニコニコしながらリュウの背中を叩くと、木製の箱を細い棒を置いてあるトレーの上に置いた。細い棒によりトレーの底面から箱を少しあげた状態にしてあるようだ。
「固まりつつある島豆乳を木箱に流し込んだら押し蓋をして、さらに水をいれたコップなどで重石おもしをして水を切っていくよ。重石おもしの重さで硬さに違いがでるから、まあこのコップなら半分くらいに水を入れたらちょうど良いくらいかの? おこのみの硬さになるまで、そうさな、半時になる前くらいで箱からそっと抜き、布に包んだまま水の中に移してから布を取るんじゃ。
その後さらに半時くらい水にさらすとさらに旨いが、さらさなくても十分な美味しさだと思うがの。」
サチコが水の張ったたらいから布を取り去ると、イヨに見覚えのある白い固まりが見えてきた。
「ジャジャーン!! "豆腐"の出来上がりじゃ!!」
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