第14話

「どうしようかなぁ……。」


採掘場の温泉を堪能し、出来立てのタオルでしっかり身体を拭いてから帰宅したイヨは、手に入れたジャージー素材の布の前で腕を組んでいた。

ちなみに現在、身体がぽかぽかである。

身体を冷やさずに帰宅できたせいか、リオの鼻水と咳も良くなったとニコニコ笑顔だった。念のため早めにベッドに寝かせたが、風邪が治るのも早そうだ。


「クズ皮はたくさんあるから、失敗しても大丈夫だよぉ。」


イヨの隣で同じようにぽかぽかのヨータが、ミシンを出してのんびりと待っていた。

ちなみにこのミシンも成人の義で貰ったものではないが、魔道具である。魔石にヨータの魔力が灯っている。


「じゃあ、試しに作ってみようかな、」


イヨは、カイから改良してもらった裁たちばさみでジャージーゴブリンの布をザーーーっとカットしていった。

裁ちばさみは眉毛を切るはさみを作成の過程で出来たものだが、小さなイヨの手に合わせて出来ており、切れ味が良く布がまっすぐに切れていた。

カイが「この"ハサミ"は鋼と軟鉄の複合にしたのだがその配合が……」など細かく説明してくれたのだが、残念ながらイヨの耳には素通りしてしまったのでハサミ作成の苦労は良くわかっていない。


イヨは、まずはAラインのワンピースを作ろうと考えていた。

型紙もないのでまあ作れそうかなあと言う理由でしかない。

袖をつけるのは難しそうだったので、ワンピースの形を前後二枚に切って、肩と脇を縫うだけの簡単な服であった。

その際に工夫として、首もとをVネックにした。

丸顔のドワーフがちょっとでも首か長く見えるかと考えたのだ。


パンゲアのすべての服のことはイヨには分からないが、少なくともユキホムラ岩国は日本の着物に似た服が主流であった。左右の衣を合わせて帯で結ぶような服で、作務衣や甚平のような形の衣服を男女問わず着ている。

先の成人式や結婚式など正式の場では刺繍された豪華な魔蠶ワームの布を打ち掛けに似た着物にして羽織ったり、下には袴に似たズボンを履いたりと普段と差別化された衣服を着ることもある。

そんなわけで、イヨの作った頭からかぶるワンピースはユキホムラではあまり見たことがない衣服であった。


「なるほどぉ。ジャージーゴブリンの皮は伸びるから頭から被っても脱ぎ着しやすいのかぁ……。眼鏡だけ気を付けなきゃだけど、楽チンだし可愛くていいね、これ! 」


イヨが自分用に作ったのだが、比較的体型の近いヨータがすっかり気に入ってワンピースを着ている。ゆったり目に作ったのが仇となったー、とイヨはジト目で兄をみる。

ヨータは顔立ちが母似で女性的だから無駄に似合っている。

それにしてもワンピースはマキシ丈だけど、下にズボンも履いていないのはどうしたもんか。スカート着る男性もいない訳じゃないし否定するのも可笑しいか……など、無駄に悩むイヨだった。


魔蠶ワームの糸や植物の繊維で作った糸で織った布より柔らかいし、伸縮性がある。それに布が風を通して気持ちいいなあ。なにより触り心地がいい。しっかり洗うとここまで柔らかくなるんやな。クズ皮に頬を擦り付けるイヨを見て頭おかしくなったかと思ったけど、これはすりすりしたくなるわあ。」


「酷い! あのとき、ヨータ兄は頭おかしくなったって思ってたんだ!! 」


「はははっ。ごめん、て。俺がもう一着作るからさぁ。」


そう言って、ヨータはささっともう一着マキシ丈のワンピースを作成した。


イヨが裁つよりも鮮やかに布を裁ち、さらに胸の下の辺りで切り込みを入れてタックを作るなどイヨの作ったワンピースよりもラインが綺麗なものが出来上がっていた。

さっき作ったイヨのワンピースがショボく見えるのでヨータ兄から脱がせたくなったが、妹の手作りという付加価値ワンピースはすでにヨータのお気に入りであり脱ぐはずもなかった。






□■□■□■□■□






「上だけじゃなくって、下に着るズボンも作ろっかねえ。」


「あ、ヨータ兄。お腹のところを紐じゃなくて、もっとびよーんと伸びるヤツにしたいんだけど……。そんなの、あるかな? 」


「あぁ。前にカエデやんが送ってくれた白い蛇の皮が凄い伸び縮みするわ。え~と、なんの蛇だったかな。うちじゃ使い道がわからなくて眠っていた蛇皮なんだよねえ。……フレビリディサーペントだったかな。あんま、聞いたことない魔物なんだけどね。カエデやんはマイナー魔物好っきだからなー。 」



がさごそと母の裁縫箱に手を突っ込みヨータが取り出したのが、白くて細い紐で……どうみてもパンツのゴムにしか見えない紐だった。


「蛇自体はそんなに伸縮しないのに干すと細くなってこんな風に伸び縮みするんだって。オモロイよねえ。でもユキホムラあたりじゃいない蛇だから、たくさんは使えないよ? 」


「じゃあ、お腹のところ全部じゃなくて脇だけとか後ろだけとか少しにしちゃう? 」


「そうなんだけどねえ。う~ん……お腹回りみんなこの蛇皮にした方が楽そうだよねえ。あ、カエデやんに頼んだらもっとくれるかもよぉ。」


「カエデ兄はたくさん持ってるの? 」


「この蛇皮持ってきた時、"これオモロイ、これでなんかオモチャ作るわ"って言ってたからなあ。たぶんあまってるんじゃないかなあ。次の梟の手紙に皮余ってるか書いておこーな? 」


「うん、そうする。じゃあ、今はあるだけ使っちゃっていいかな? あ、ズボンを作るなら上は短めにした方がいいよね。」


「袖も作ろっか? 筒袖繋げりゃそれらしくなるんじゃないかなあ。肩のところ山みたいなカタチにして。こーして、あーして、手首のとこはこんな感じで、首もともちょっと工夫してみるかあ―――ね、こんなんでどうかなあ。」


「おぉ…! ヨータ兄凄い! 天才!!! 」


こうして器用過ぎる兄と作り上げたジャージー素材の上下は、トレーナーとハーフパンツというイヨ(前世)の中学時代の体操着に大変近い代物であった。

やり過ぎヨータ兄ちゃんはさらにそれを家族分作成し、仕事の合間に覗いた母タエの過剰な愛情が名前の刺繍となって胸元に縫われたのであった。

ジャージ……というか、中学生の体操着の完成である。

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