第11話
ドワーフたちは採掘場と呼んでいるが、実質はダンジョンである。
ダンジョン内濃い魔力により、堅さや色や様々な魔力効果のある魔石を産む。
そのためより魔物が多く住み、より深い地下にある岩に効力が強くレアな魔石が眠っている。
しかもどんなに掘り進めても、月に一回ダンジョン特有の再配置が起きてしまうため、魔物や宝箱だけではなく岩場の魔石まで埋蔵数が戻ってしまう。
いわば尽きることのない採掘場なのであった。
その魔石を採掘し、鍛治で武器や防具に替えて売るのがこのユキホムラのドワーフたちの主な産業であった。
ギルド管理で個人的に採掘するドワーフもいれば、大きい会社クランで採掘して固定給もらうドワーフとさまざまおり、イヨの兄たちは前者である。採った魔石をゲンやカイ・シンに加工して販売している。言ってしまえば家族経営だろうか。
「ここが採掘場かぁ……!! 」
イヨは採掘場の入り口を見上げた。
朱い森の採掘場は名前に違わず朱色の葉を着けた木々に囲まれたダンジョンであった。
「レベル1から入れる採掘場だけど、それでも兄ちゃんたちからはなれんなよぉ、イヨ? 」
「子供でも倒せるグリーンゴブリンくらいしか出ないけど、叩かれたらすこしは痛いしな。」
「リオちゃんも風邪ひいてんだから無理すんなよ? とりあえず俺とヨーちゃんで払うからさ。」
「おぉ。じゃ、俺が殿《しんがり》だな。イヨ、俺の前歩け。」
「あ、そーだった。これ、一応イヨにも渡しておくな? 」
「あ、この短剣! カイ兄の作ったやつ! 」
「そ、そ。切れ味いいから気を付けてね。」
まん丸なつり目を片方きれいにウインクしたヨータ兄から短剣を貰い、イヨは腰に提げていつでも攻撃出来るように何度か鞘から出してみる。
ヨータとヨシは腰に長剣とツルハシの二本を装備し、後ろを歩くリオは授かった魔法のツルハシを長剣に変化させて腰に提げていた。
「なんだか暑いね…… 」
「ここの採掘場は暑いけど、冬みたいに寒い採掘場もあるんだよねー。」
「蒸し蒸ししてるけど、今のリオちゃんの体調には優しいかもね。」
「ああ。喉の痛みがちょっとマシかも。」
採掘場に歩き始めてすぐに、小さくて痩せこけたゴブリンが三匹現れた。身長はイヨより小さく、1メートルもないくらいだ。
ゴブリンたちはイヨたちに出会うのが想定外だったのか、まごまごと狭い坑道で互いにぶつかり、逃げもできない様子だった。
獣のような声を出し、形容しがたい顔つきをしていた。貧困なボキャブラリーで言ってしまえば不細工。
そして肌の色が聞いていた緑色ではなく、薄い灰色をしていた。
「あれ? ヨータ兄、これはグリーンゴブリンじゃないよね……? 」
「あー。珍しいねえ。これはジャージーゴブリンだなぁ。」
「グリーンゴブリンよりも弱っちいから心配ないよ。おら! 先制攻撃ィ!!! 」
ヨシが剣を斜めに切ると、ゴブリンの絶叫が響いた。三匹とも傷を負い、一番左のゴブリンは頭部にダメージを受けて倒れた。
ヨータも続けて剣を奮い、残りの二匹を地に沈める。
「えー! 兄ちゃんたちもしかして強いの!? 」
「いや、ゴブリンが弱すぎるだけだよ。よゆーでイヨでも倒せるって。」
「次一匹だけだったらイヨにやってもらうかぁ? 」
「えぇ! やったことないよ… 」
「そりゃそうだ。誰だって最初はやったことないもんだろ。」
「それよりイヨ。ほら、不思議な光景がみれるよ。採掘場の魔物は溶けるんだよ」
「えっ? 」
リオに言われてゴブリンを見ると、死体がまさにどろっと溶けるように消えた。後にはクズ魔石と呼ばれる、小さな石だけが残った。
「採掘場もそうなんだけど、ダンジョンと言われるところは、こんな風に倒した魔物が溶ける。理屈は分からないんだけどね。ダンジョン以外で出会う魔物はこうはならないし、石もドロップしない。」
「ほら、また来た! レア続きでジャージーゴブリン一匹だ。」
「イヨ、倒さなくていいから一撃入れてみろ。兄ちゃんたちがついてるから大丈夫。」
ヨータとヨシに背中を押され、前に出る。
言っておくが、前世では蚊ぐらいしか倒したことがない。
ましてや人の形をした……いや、ゴブリンってよく見たらキモい。人っぽくはないじゃん。
え、近づかないで、キモい! なんか臭いし! キモい!
目を閉じたまま、短剣を振り回すと何かに当たった感触と、ゴブリンの絶叫が聞こえた。
「イヨ、一発でやったじゃん! 」
「え?」
目を開けると、灰色の肌が溶けているところだった。
呆気ないイヨの初戦。
あとに残るのは、クズ魔石と灰色の皮のようなモノだった。
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