第10話
「あ"あ"ーーー俺の休日ぅぅぅ!! 」
「ごめんなー。ヨシが居ないとダメなんやって。ね? おごるからさ。」
「俺っていうか
イヨは採掘場へ向かうトロッコに揺られてながらヨータとヨシのささやかな言い争いを聞いていた。
朝なら満員電車のようにドワーフが詰め込まれているトロッコも、昼を過ぎていたのでガラガラだ。
屋根もないトロッコがなかなかのスピードで走るので、イヨは手すりに捕まり目をぎゅっと閉じている。なぜなら怖いから。あと、酔うから。
さすがに兄三人は慣れているのか、のんびりおしゃべりをしている。
「分わーってる分わーってるって。ヨシの一回分は結構高くつきそうやなぁ…… 」
「大丈夫ー! リュウんところのレストランにしとくから。」
「リュウのとこは家族でもキッチリ請求されんだよなぁ―――あ、リオ、具合はどう? 」
「おぉ、大丈夫。今のイヨよりは元気一杯だわ。」
リオは風邪を引いているためいつもより厚着をして、夏だというのにぐるぐる巻きのマフラーをしているが、元気そうな声を出す。とはいえ頻繁に鼻を啜り、時々盛大なくしゃみを伴っているが。
兄たちは話ながらイヨを見たが、彼女は目を閉じたまま返事はしない。と、いうか出来ない。トロッコが激しく揺れているから。
イヨは兄たちがなんでこんなに揺れているのに舌を噛まずに喋れるのか、不思議に思うのみだった。
「イヨ、今日はそんな遠くまで行かないから大丈夫やでー。」
「1番近くの採掘場だからね? 」
「その前に採掘ギルドに行ってから、だな。」
三人が代わる代わる末っ子の頭を撫でているうちに、ギルド前の駅に到着した。
おそるおそる目を開けたイヨは、目の前に広がる大きなレンガ作りの建物に圧倒されていた。赤いレンガに白い窓枠がレトロな色合いで、ドーム型の屋根が作りものみたいでメルヘンな建物には、たくさんのドワーフたちが出入りしていた。
前世で見たことあるような……。あ、東京駅に似てるんだ!
外からはテレビでしか見たことないけかもしれない。中は乗り換えのためによく歩き回ったけど。
と、ぼんやり考えているイヨをヨータは手を引いて建物に連れていく。出入りが激しいのでぼーっと突っ立っていたら邪魔なのだ。ぶつかりでもしたら、気の荒い採掘ドワーフたちに怒鳴られてしまう。
「さあ、イヨ。採掘組合ギルドにようこそ。まずは登録しないとどの採掘場にも入れないからねー 」
「おねーさん、こいつの登録おねがーい。俺たちの妹やねーん。」
「ほら、イヨ。受付に手を出して? 」
ヨータとヨシの言われるままに受付のドワーフ娘に手を差し出す。
このドワーフ娘も流行りに乗って顔の毛を剃り、白くて艶やかな頬をさらけ出していた。アーモンドみたいな目をくりっとさせて子リスみたいな、笑顔の可愛いドワーフだった。
ヨシが馴れ馴れしく話しかけており、ヨシ兄の好みはこんな感じなんだな、とイヨはぼんやり考えていた。
「リオさんが風邪を引いたから、しばらく入られないとお聞きしてましたが……。ふふふ、妹さんのご登録ですね。こちらに血液を頂きます。少しチクッとしますね。」
ドワーフ娘に指先に針を刺され、血を絞られる。
指先にぷっくりと膨らんだ血液を魔法の銀色のカードに染み込ませると、カードが鮮やかな深紅へと変化する。
カード表面にはユキホムラの文字でイヨの名前と家の名前。それから個人認証のためか髪の色、瞳の色などが記載されていた。
にっこりと微笑んだ受付嬢からカード差し出され、イヨはおそるおそるそれを受けとる。カードの驚きの変化に、刺された指の痛みも気にならなくなっていた。
目を白黒させて驚いているイヨの顔を覗き込んでいた三人の兄は、それぞれ笑いを噛み殺したり、押さえきれなくなって吹き出したり顔を反らしたりしていた。実に失礼な兄たちである。
「こちらは採掘カードになります。採掘場に入る際には入場料が必要になりますし、採掘に入る時と終了して出るときは組合ギルドにてチェックを受けてください。日を跨いで入る際は必ず事前の報告が必要となります。―――まあ、お兄様たちに聞いていただいた方が詳しいかと思いますが。」
「ミコトちゃん、今日は俺達朱あかい森鉱山の採掘場に入るよ。妹の初陣だからね! はい、入場料四人分、ここに置いておくよ! 」
「今日は入るだけだからねー。石とかは期待しないでねー? 」
「はい。ヨータさん、リオさん、ヨシさん、そしてイヨさん。採掘、お気をつけて行ってらっしゃいませ。 」
深々とお辞儀をする受付嬢を背に、イヨたちはまた違うトロッコに乗る。そして今度はトロッコ酔いをする間もなく森の入り口に到着した。
ここが採掘ダンジョン"朱あかい森鉱山"であった。
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