第9話

「えええ、これは細かいわァ… 」



例によって、イヨは余り布にタオルの図解デッサンを描いて母へ渡していた。


前世では当たり前にあるものだったため、そんなにじっくりタオルを見たことなんてなかったなあと思いながらどうにか描き上げた図。

輪ループがあったことは記憶しているが、なんとなく一列にそのループが並んでいた気がする……という程度。

どうやって織るのか想像できないけど、横糸を輪ループにして織り込んで行くしかない。


「えー、これ、イヨが描いたん? 」


母と二人で図解デッサンを覗いていたら、後ろからのんびりした声がした。


「あ! ヨータ兄! 今日は採掘お休みなの? 」


「おー、この前リオの風邪が治ってないのに採掘行ったら、全然採掘できなかったから、完治まで休養。あいつはベッドでおねんね中や。」


「ホント、あなたたちは身体が資本なんだから、無理しちゃダメよ。ヨータもリオも子供の時から風邪引きやすかったんだから。」


「りょーかい、かーさん。―――んで、暇なんだけどな、その不思議な布、俺も手伝っていい? 」


「そりゃ、嬉しいけど……――――」


機織り工房はリビングのすぐとなりの部屋で、ガラスから光がたくさん差し込んでいた。

機織り工房には小さな応接間と台所、そしてタエの仕事道具が整理整頓され置いてある。

タエの織機のとなりにある布のかかったものをとりはらうと、普段ほとんど使わないヨータの織機が置いてあった。


「え!? ヨータ兄が織ってくれるの? ってーか、織れたの!? 」


「たまには巫女さまから貰った道具も使わなきゃねー♪ 」


「あら、イヨはヨータの布はみたことないかしら。とても上手なのよ。ヨータは兄弟イチ器用だからね。」


「そーでもないってー! へへへ。 あ、イヨ、これは柔らかい糸がいいんやな? 」


「そう、柔らかいのがいい。なにがいいかな。琥珀綿だと高級かな? 」


「下着に使ってる、リヌム蜘蛛の糸を使ってみたらどうかしら? 」


「おっしゃ、試してみよーか! 」


ヨータは丸メガネをくいっと上げてから、糸をセットする。


機織り機はイヨの前世で、歴史博物館にあったものとよく似ていた。所々に魔石が取り付けられているのが違うところか。

ヨータが機織り機の前に座ると、青い魔力が煙のように立ち上ぼり、魔石に魔力が灯るのがわかった。


トントンカラリ、トンカラリ♪


トントンカラリ、トンカラリ♪


トントンカラリ、トンカラリ♪


トントンカラリ、トンカラリ♪




ヨータが手織り機で歌うように、リズミカルに織り始める……が。


長い針金を取り出し、リヌム蜘蛛の糸と一緒に横糸として織り込んで行く。


「え!? ヨータ兄、それなに?」


「えー、イヨの図解見たら、こういうことかなーって」


「なるほど、一々縫うって勘違いしていたわ。織る段階で横糸と一緒に細い針金を打込んで行くのね。一直線に並んだループを作るにはそれが一番簡単ね。」


「織り上がった後この針金をそっと抜くと……ほら、図解デッサン通りのループが出来るよー 」


「そうね、緩めに織った方が良さそうねぇ。」


「ヨータ兄、、、天才かも! 」



トントンカラリ、トンカラリ♪


トントンカラリ、トンカラリ♪


トントンカラリ、トンカラリ♪


トントンカラリ、トンカラリ♪






魔道具だからなのか、ヨータの腕がいいのか、あっさりとタオルが織り上がった。


いや、イヨはフェイスタオルくらいのものを考えていたのに、出来たのは立派なバスタオルだった。

しかもちゃんと家族分10枚あっという間に織り上げる。


「ホントに!! ヨータ兄はマジ天才かもしれない!!! 」


「あらあら。触り心地のいい布ねぇ。」


「で、イヨはこれでどんな服を作るんー? 」


「えー? 服じゃないよ。端の処理をして―――これで完成。」


「え!? 布これで完成!? 」


「そう。これはタオル。顔を洗った後とかに手拭いだとまだビシャビシャするけど、このタオルならループが吸水性を良くするから綺麗に拭けちゃうの。」


「顔を拭くのなら、もっと小さめがいいかもしれないわねえ。」


「おっしゃ。小さめの布も作ろか? 」




トントンカラリ、トンカラリ♪


トントンカラリ、トンカラリ♪


トントンカラリ、トンカラリ♪




ヨータはあっという間に家族分のフェイスタオルを10枚織り上げる。

試しに三人で台所へ行って洗顔し、出来たてのタオルで顔を拭う。

いつもの手拭いとは違い、すぐに肌がさらさらとなる。

そして柔らかい肌触りに、いつまでも頰を擦り付けたくなる心地よさ。

チョー気持ちいー

これよ、これ。イヨが求めていたタオル!


「まぁ……! 確かによく吸い込むわねえ。」


タエはそう言いながらヨータの顔を覗きこむ。

しかし、ヨータはタオルを見ながら黙りこんでいた。



「イヨ、これをリオとヨシの分まで貰ってもいいか? 」


「うん。それはヨータ兄が織ったものだし、もともと家族の分作りたかったから全然いいけど。――どうしたの? 」


「ああ、ちょっと試したいことがあって―――リオ!ヨシ!採掘の方まで行くぞ! 」


「採掘に行くの? 」


「そうだな。……うん。イヨも一緒に行くか? 」






注意※タオルの作成方法は事実とは異なります

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