第2話


タエに背を押され、イヨもその集団に混ざって巫女様の到着を待つ。

振り向くとタエは別の臣従に連れられ建物へ遠ざかっていく。

ドワーフの親たちは待合所の様なところへ行くようだ。

イヨは、親と離れることでよりいっそう落ち着きがなくなっている。




しばらく待つとがらんごろんと鐘が鳴り、祠の奥に灯りの魔石が朱色に点った。巫女様の弟で政まつりごとを担当しているイクオミが巫女様の到着を伝える。




「あれがイクオミ様ね。聞いた通りの鋭い目付きだね。」


「巫女様あのなかにいるのかな?」




イヨはとなりに来ていた幼なじみのノマと小声で話す。

ノマも一人っ子らしく、親の気合いが見えるインディゴワームで染めた藍色が鮮やかな着物を着ていた。




「朱色は巫女様の貴色だからね。あの魔石が点ったってことは、たぶんいらしたんだよ。」




小さな声で話したつもりだが、イクオミがじろりとイヨたちを見たので慌てて口を閉じる。


イクオミは髭の下の整った顔と鋭い目付きから氷の王とよばれているらしい。イヨとノマは背筋まで凍えた気分になった。








岩の都の"長老"ドワーフがしずしずと前に出て、成人の義を宣言する。

挨拶と成人への訓辞(長くてありがたいやつ)が終わると、一人ずつ祠に入るように言われる。




そう、ここからが本番。




ヒューマンや他の種族とはちがい、ユキホムラのドワーフは成人の義に巫女様からそれぞれに適正のある魔道具が贈られる。




長兄のカイや三男のシンのときは父と同じ鍛治用の金槌が贈られ、立派に家業を継いでいる。このように親と同じ魔道具が贈られて家業を継ぐドワーフが多いが、必ずしもその仕事をしなくてもいい。

五男のヨータは母と同じ織り機が贈られたにも関わらず、違う仕事をしている。

双子である六男リオがつるはしの魔道具を贈られ採掘の仕事に従事を決めた際、身体が弱いリオを心配したヨータも一緒に採掘の仕事をすることにしたのだ。


贈られた魔道具なんか使わなくったってヨータ兄ちゃんが楽しそうに仕事してるから、どんな魔道具であっても気にせずに仕事ものんびり探せばいいやとイヨは思っていた。








「あードキドキする。何の魔道具かなぁ。私、家の仕事継げるように、ママと同じように鑿ノミがいいんだけど。イヨはどんなのがいいの?」


「できればヨシ兄みたいに魔法鞄マジックバッグとか貰えたらいいんだけど…。珍しいし、便利だし。今はヨータ兄とリオ兄にくっついて採掘してるけど、どんな仕事にも応用出来んじゃん。」


「ヨシ兄って七番目のお兄ちゃんだっけ? イヨん家は兄弟多いから家業を継がなくてもいいもんね。うちは一人っ子だし、他に出来ることないしなぁ…。」






イヨもノマも、ソワソワしながら祠を見る。


すでに魔道具を贈られた成人が、歓声をあげているのが見える。今回の成人の義ではつるはしや斧を掲げるドワーフが多いようだ。採掘するドワーフが増えたら魔鉱石が供給されて父の仕事も捗りそうだな、とイヨは思う。




みるみる祠への列は少しずつ消化され、自分達の番が近づいている。

ノマの番が来て、少しイヨの方を振り返ってから不安そうな表情を浮かべたまま祠に入っていく。

イヨはその背中に軽く手を振って見送る。


しばらくすると、白い魔虫の外殻で出来た扉から漏れていたオレンジ色の光が目映く光る。

祠から出てきたノマは満面の笑みでイヨに手を振った。その手には魔道具らしく白色でうっすら発光している鑿ノミが見えた。望みの魔道具が贈られたようで、イヨもなんだか嬉しくなった。








イヨの順番が来る。


緊張しながら扉を潜ると、最奥の一段高いところにに白地の着物に朱色で細かい刺繍のされた着物を着た小柄なドワーフが座っていた。

レースに似た布のベールで顔はよく見えないが、溢れる気品はベール越しにもよくわかる。

織り師の母がいるため様々な布を知っているつもりのイヨであったが、巫女様のベールの素材は全く想像がつかない見たことない布であった。


イヨの貧困なボキャブラリーでは"キレイ"以外の表現法方が浮かばなかった。






「ロックパディ鍛冶屋の娘、イヨです。」




家名と名前を名乗るだけなのだが、緊張で喉が乾いて変な声になった。練習したのに全然うまくいかない!


巫女様がくすりとわらう。




「成人おめでとう。そなたの魔道具を贈ろう。」




鈴の鳴るような声がして巫女様が手を伸ばすと、巫女の胸に提げられていた大きめの勾玉が光輝きだした。それに呼応するかのように、イヨの前に置いてあった朱色の布の上に白い光の魔方陣が現れる。


魔方陣が回転するように上昇すると、宙に白い塊が浮かび上がり、その中心から朱色の光が一閃、輝く。


眩しさにイヨは、目を閉じた。




「イヨ、これがそなたの魔道具じゃ。手に取れ。」




「、、、は、はい。ありがたく頂戴致します。」




イヨが恐る恐る目を開けると、光は眩しくなく優しく辺りを照らしていた。魔道具は魔方陣の中央に浮かんでいる。


意を決して手を伸ばし、魔道具を掴みとる。


縁に装飾のある平べったい円形のモノのようだった。


魔道具をしっかり抱きしめ、巫女様へ一礼して祠を出る。




祠の外にはいつの間にかタエが来ていた。








「イヨ、おめでとう。なにを贈られたの?」




「ありがとう、ママ。私の魔道具…これ…」




深緑に鈍く光る円形の鉱物には細かい花の彫り物がしてあった。


ひっくり返すと、よく磨かれた鏡が現れた。




「あら? 鏡って珍しいわね」




「…鏡…?」




イヨは鏡を覗きこんだ。


そこには典型的ドワーフの自分の顔が映ってーーーー




自分の顔…………………?




っ、、、?!




って、ええ???




ええええええええええええっ!!!!






「ーーーこんな不細工、私じゃない!!!!」


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