30話 帰庫
「はい、次はクラクトン17号だね。 あれ?鉄道管理局から何か指示が来てたな。えぇと、うわっ、クラクトン17号列車研究員をクラクトン・シーまで回送誘導!? キミ、王室所属になったのかい?」
「あ、え、えぇ。」
「研究員列車、制限速度60キロで進行許可しますっ!」
王室ブランドって、強いんだなぁ。
「了解。出発、進行。制限60!」
カタタン、カタタン。
色んな出来事があって、色んな話があって、怒涛のような時間を過ごしたけど、こうして、一人で線路の上を走るのも気持ちが良いんもんだよね。
カスティリアゲートで停車する。各駅停車の回送列車なので、全駅で運転停車だ。
出発信号機が騒いでいる。まぁ、なんとなく内容は想像出来てるんだけど。
「17号! 魔法研究所の研究員になったんだって? 王室所属の列車さまじゃないか、凄いな!」
「いや、ほら。魔法が使えるようになったから、ボクは研究対象ってことだよ。」
「いやいや、クラクトン線に王室所属の列車が居るなんて、鼻が高いぜ。おっと、研究員列車、速度制限は60キロで進行許可だよ。」
「ありがとう。出発、進行。制限60。」
出発信号機の対応、見事に予想通りだったな。
これ、全駅で繰り返すんじゃないだろうかと思うと、ちょっと憂鬱になるな。
まぁ、贅沢な悩みなのかもしれないけど。
結局、全ての駅の出発信号機が、ほぼ同じリアクションをし、ボクもほぼ同じ答えをし続けてクラクトン・シー駅まで戻って来た。
クラクトン・シー駅では駅長が出迎えてくれた。
「お帰り、17号列車。王室所属になったんだって?大出世じゃないか!」
「いえいえ、魔法が使えるようになったんで、魔法研究所の研究対象になったってことですよー。」
「そうだよね。魔法が使えるんだから魔法研究所だよね。でも、研究員がこんな田舎の路線に配置されたままになるかな。どこか1級路線に異動になるんじゃないかな。ちょっと不安だよ。」
ボクたちは基本的に、ボクたちの希望通りの生活が出来るって言ってたので、ボクがここを希望し続ける限り、異動にはならないとおもうけどね。
「えー、ボクはクラクトンの17号列車ですよー。」
出発信号機の表示が進行に変わった。
「17号列車、あ、研究員列車、クラクトン・シー列車区まで制限速度30キロで進行許可。久々の車庫、ゆっくり休んでな。」
「出発、進行、制限30!」
車庫場内信号機の前で停車する。
「おー、しばらく帰ってこないうちに、ヒーロー列車になったかと思ったら、そのまま研究員列車になっちゃった17号列車。君の今夜の宿は3番留置線だよ。ウェルカムバック、マイ、スイートホームだ。注意して進んでくれよ。」
「了解、場内、注意!」
車庫に停車した。あぁ、ほっとする。ひと眠りする前に明日の運行予定を確認しておこうか、計器盤のスケジュール表を、と。
あれ?明日は運行予定に組み込まれないな。 そうか、いつ復帰するかわからなかったボクが予定に組み込まれてる訳が無いか。明日中には明後日以降のスケジュールが変わるだろう。まぁ、ちょうどいいや、なんだかんだ言っても疲れてるのは事実だから、明日はゆっくりさせてもらおう。
鳥の鳴き声が聞こえる。あぁ、昨日はあのあとすぐ寝落ちしたんだな。
今日は運行予定もないし、もうひと眠りしようか。
次に目が覚めた時には昼を過ぎていた。うわぁ、久しぶりに良く寝たわぁ。気分はスッキリしてるけど、寝すぎて身体が痛いなぁ。
さて、目も覚めたし、もう眠たくもないし、どうするかな。
「17号列車ー、お客さんだよー。」
列車区のスタッフがこちらに向かってくる。
お客さん?なんだ?
スタッフの後をぴょんぴょん跳ねるようについて来てるのは、あ!タマミちゃんだ。
「17号列車さん、お帰りー。点検、異常なかったんだって?」
「タマミちゃん! ただいまー。もちろん、ボクは頑丈だからねー。 それより、どうしたの? 学校は?」
「いやぁねぇ。今日は日曜日でしょ。」
「あ、そうか。なんだか今日がいつなんだかも、わからなくなってたよ。それで、日曜日にどうしたの?」
「今日はね、これ、持ってきたの。」
タマミちゃんの手には、タパキング、じゃなくて、タペストリー。
「あ!タペストリーだ。また作ってくれたの?」
「ほら、前のやつはシルバーフォレストで車両と一緒に無くなっちゃったでしょ。だからね、新しいのを作ったの。17号列車にはタペストリーが似合ってたからね。」
「うわぁ、ありがとう。疲れたのに大変だったんじゃない?」
「えへへ、実はね、タマミが作ったのは17号列車さんの所だけでね、周りのお花は明子おばあちゃんが作ってくれたの。ほら、明子おばあちゃんって、刺繍が趣味だから、上手くて速いのよ。」
確かに刺繍が趣味って言ってたっけ。
「じゃぁ、共同作品ってことだ。すごい嬉しいよ。さっそく車内に飾らせてもらうね。」
「今日はそれだけー。じゃぁ、また来週ねー。」
タマミちゃんは小走りに帰っていった。
「噂通り、嵐のような元気っ子なんだね。」
列車区のスタッフが笑ってる。
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