29話 日常の世界へ
「うーん、あまりに突然で。基本的にはお世話になるべきなんだろうと思いますけど、条件とか無いんですか?」
「詳細は契約書があるので、そちらを読んで頂いた方が良いですが、ざっくり言うと、各自自由に好きなことをしてて大丈夫です。もちろん、毎日仕事せずに遊んで暮らしたい、というのはちょっと、ですけど、給与とか職種に関わらず、普通に働いてもらっていれば、実際の給与額とは関係なく、研究所研究員としての給与が支払われます。少し細かく説明すると、各自のやりたい仕事、職場に魔法研究所から出向する形になります。そして、肝心な義務の部分ですが、それは、万一エンチャンティア王国が他国から戦争を仕掛けられた場合には防衛に参加する、です。ただし、エンチャンティア王国は戦争で領土を広げることはありませんので、戦争が起きるとすれば攻め込まれた場合のみです。」
「なるほど。確かに良くできた制度ですね。ちなみに、複数属性の魔法者で、研究所の研究員ではない人っているんですか?」
「我々が知ってる限り全員研究員です。もちろん、山下さんがそうだったように、それが発動する前の人たちも居るとは思いますが。」
「なんだかもう、研究員にならない理由が無いですね。よろしくお願いします。」
「わかりました。後で秘書官が来ますので、具体的な内容な彼女と調整頂ければと思いますが、大きく、生活、といいますか、仕事はどうしますか? こちらで何か探しますか? それとも現在の仕事を続けますか? あ、専属で王室専用列車になるというのもありだと思いますよ。」
「将来のことは分かりませんが、今は、今のままが良いです。お客さん達とも仲良くやってるし、友達も居るし。列車で走るのは楽しいんです、ボク、鉄ヲタなので。」
「あぁ、そうでしたね。では、王国鉄道省に出向っていう形になると思います。もしかしたら、王室行事等の特殊任務が追加で与えられるかもしれないですね。山下さんは王室専用列車と同等の魔力を持つ列車ですから。」
「もちろん、追加任務も喜んでお受けします。列車として光栄です。あははは。」
「これで、山下さん、いや、17号列車さんも我々のチームですね。機会がある毎にメンバーの皆さんをご紹介しますが、どこで何の仕事をしていたとしても、その人が魔法研究所の研究員であれば、その人は複数属性の魔法者で、転生者だということです。相手も、あなたが研究員であることを知れば、あなたが複数属性の魔法者で、転生者であることを認識します。まぁ、複数属性の魔法者しか研究員になれないのであたりまえですが。」
その後、事務担当の秘書官と細かい話をしたが、今の生活が変わる訳ではないので、特に大きな変化は無いようだ。ただ、唯一、車両に王室直属魔法研究所所属である印として、王室紋章が付けられることが決まった。
クラクトン・シーの列車区へ戻る前に、最後にもう一度ヨネサキ所長と話をした。
「ヨネサキ所長、色々とありがとうございました。これからもよろしくお願いします。」
「17号列車さんの益々の活躍を期待してます。何といっても巷ではヒーロー列車って呼ばれてますからね。ここに王室紋章が付いたら、もう本当にヒーロー列車になりますよ。頑張って下さいね。何かあればいつでも研究所に連絡下さい。それにあなたは研究員なので、いつでもこのホームへ入れますし、ここへ来るまでのダイヤの調整も信号機に言ってもらえれば優先的に調整されるようになってます。」
「わかりました。何かあれば、すぐにご相談に伺います。」
では、クラクトン・シーに帰るとするかな。
ホームの出発信号機にリクエストしてみるか。
「あの、用事が終わったので、クラクトン・シーの列車区へ帰りたいのですが。」
「はい、クラクトン17列車研究員、承知致しました。ダイヤの調整を行いますのでしばらくお待ちください。」
うわ、もうボクが研究員として登録されてるんだ。
「お待たせいたしました。申し訳ありませんが、ダイヤが混み合っているため、特急運用でのダイヤでの調整が出来ず、回送列車としての調整になりました。もし、緊急案件という事であれば他のダイヤに介入致しますが、如何致しますか?」
うわ、王室所属ってこういうことなんだ。
「いや、回送列車で十分ですよ。調整ありがとう。」
「それでは、回送列車、カスティリア中央経由のクラクトン・シー行き、運行経路は先ほどの逆ルートとなります。王室専用線内は制限25キロで出発許可です。」
「了解。出発、進行!制限25!」
地上へ出て、魔法研究所線のゲートの前に停車した。
「クラクトン17号列車研究員を確認。ゲート開放します。」
ヴワー、ヴワー、ヴワー。
警戒音が鳴り、ゲートの枠が赤く点滅しながらゆっくりと左右に開く。
信号の表示が警戒に変わった。
「出発、警戒!」
つぎは王室専用線のゲートだな。
王室専用と書かれたゲートの前に停車した。
「クラクトン17号列車研究員を確認。ゲート開放します。」
ヴワー、ヴワー、ヴワー。
警戒音が鳴り、ゲートの枠が赤く点滅しながらゆっくりと左右に開き、信号の表示が警戒に変わる。
「出発、警戒!」
渡り線のポイントを3つ渡って総合車両点検センターへ入った。
後は、このままクラクトン線へ入れるんだよな。
出発信号機を見る。
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