20話 強制着陸

 「小隊長! 中庭に強制着陸します。掴まってください!」


「了解! 総員、衝撃に備えぇっ!」


飛行するのも初めてなら着陸も初めて、それも、こんな狭い所に無理矢理の強制着陸、もう無理ゲーすぎて笑うしかないわ、これ。 


ぷあぁぁぁぁん。


高度を下げつつ速度も下げる。 

うゎっ、速度を下げると失速して落ちそうだ。難易度マックスだな、これ。

昔鍛えたエスエスコンバットの腕前を披露、できないよ、シミュレーターじゃなくって、実際に飛んでるんだもん。全身に風受けて飛んでるんだもん。失速する感覚、テーマパークの落下系の乗り物みたいで気持ち悪い。。あ、前世最後の展望台からの自由落下の感覚が蘇ってきて、一気に気分が沈んでしまった。


うわ、高度が下がる!


ドガガガーン。


列車の車輪が城の壁の上に接触してしまった。

壁が破壊され、列車の速度が更に下がる。


あぁ、もう速度も高度もコントロールが効かない・・。

列車は中庭に向かって降下していく。


ガガッ、ガガガッ。


列車が中庭に着地するが、勢いが強すぎるのか、そのまま地面から弾き返される。

地面に叩きつけられる度に車両がひしゃげていく。


バキッ


うわっ車輪が取れた!

とにかく地面に着地しないと・・全力でブレーキをかけて速度を落としつつ、列車を地面に押し付ける。


うぉぉぉぉぉぉー。


ズガッガガガガー。


列車は中庭の土を大きく削りながら土煙をあげて停車した。いや、墜落し土に半分めりこんだ、と言う方が正解かもしれない。


「小隊突入!」

即座に王国軍の兵士たちは小隊毎に分かれて城内へ突入して行った。


線路以外の場所に停車するのは初めての経験だな。

するすると床、車輪から魔力が抜けている感覚がわかる。線路に守られてないって、こういうことなんだな。車両は相当損傷しているようだ。先頭車両は車輪が無くなり、2両目は車両がひしゃげてしまっていて、ひし形みたいな形になってしまっている。屋根が爪で引き裂かれてた3両目は、ざくろみたいにパックリと車両が天井から割れて開いている。もう、車両とは言えない形だな。


城内からは軽機関銃の音、迫撃砲の音、ミサイルの音、銃の音、剣が何かを切る音、魔物たちの悲鳴が響いてくる。


小隊の皆さん、思いっきり戦ってるようだな。これならタマミちゃんたちは救出されるだろう。

それに引き換えボクの方は・・・ 無くなった車輪、すでに車両の形すらないような列車、抜けていく魔力。計器盤の魔力計は赤い表示で3と表示されている。魔法量3って、見事に空っぽじゃないか。残念だけど、ボクはここまでみたいだね。それでも、王国軍をここまで連れてこられたのだから十分成功と言っていいんだろうな。

線路上以外で魔力がゼロになったら、ボクらは自力では動けくなるって9号列車が言ってたけど、そうなったらどうするのかは言ってなかったなぁ。そこのところをちゃんと聞いとけばよかったな。

魔物の討伐が終わったら、ボクもここから救出してもらえるんだろうか?いや、こんな車両の形すら残ってない列車を回収する意味は無いかな。


でも、せっかく、ここまで来たんだから、せめて救出されたタマミちゃんたちの姿位は見たかったよな。代わりに絆の印の絆石を見納めに、と。 あれ?速度計の上に置いておいた絆石が無いぞ。

強制着陸、いや、墜落の衝撃でどこかへ飛んで行ってしまったようだ。


最後に絆の印を見ることすら叶わないのか。見事なくらいにボロボロな最後だな。

計器盤の魔力計の表示が2に変わった。あぁ、ここまでだな。列車人生、結構楽しかったぞ。前世より全然短い期間だったけど、相当充実していたな。

疲れたよ。。 ここで犬の名前でも呟いておくかな、なんて、最後までくだらないことを考えてるんだな、ボクは。

ゆっくりと目をつぶりながら視線を下げる。


キラッ。コバルトブルーの光が目に入った。


お、絆石の欠片だ。なんだ目の前に落ちていたんだ。

改めてじっくり見ると綺麗なコバルトブルーだよな。


ん? この石、さっきから少しずつボクに近づいてきてないか?

そう言えば、ボクの左右からも絆石の破片が近づいてきているぞ?


なんだ? 絆石って動くものなのか?


絆石が列車の下に入り込んで見えなくなってしまった。


しばらくすると、列車の下から、ふわぁぁっとコバルトブルーの輝きが出てきて、列車の下と周囲の地面がコバルトブルーの光に代わった。


魔力が抜けていく気持ち悪い感覚がとまった。

なんだろう、なんだかとってもリラックスできるぞ。

絆石が守ってくれてるのか?


魔力計の魔力量は1を表示したところで魔法の流出が止まった。

紙一重というか、これはもう奇跡としか言いようがないね。もしかしたら、魔法量さえ復元できれば、まだ可能性があるのかもしれないぞ。


魔力を作り出す。魔力が温泉のように湧き出る様子をイメージ、ボコボコ湧き出る、ボコボコ湧き出る・・。 


ポコッ。 ほんのわずかだけど魔力量が増えたぞ。


ポコッ。 


ポコッ。 


魔力計の魔力量が2に変わった。

さっきまでの、もの凄い勢いでの魔力量の増え方とは程遠いけど、増えた。


ポコポコッ。

ポコポコッ。


魔力量3。


ポコポコポコポコッ。

ポコポコポコポコッ。


だんだん魔力量の増え方が大きくなってきてるぞ。もしかして、既存の魔力量が多ければ増える量も多いってことなのか?


ボコッ。


魔力量が2桁になった。

あー、やっぱり、魔力量があるって、安心するわー。ちゃんと落ち着いて考えることも出来るよ。


全ての魔力を魔力の復元に集中させよう。そうすれば倍々ゲームで魔法量が戻るはずだ。


ボコボコッ。


良いぞ、もうボコボコと魔力が湧いてきている。


よし、次は、列車の修理だな。これはどうしたら良いんだろか? 壊れる前の列車の姿をイメージしてみよう。 特急運行の前に洗車機で綺麗になったばかりの姿をイメージしてみる。洗車が終わった綺麗な車体だぞ。 あれ?ダメだな、まったく変化しないぞ。修理は出来ないってことだろうか。

そうか、列車の点検、修理は総合車両点検センターでやってもらってるんだもんな。自分の魔力で治せるなら、そんなことしないよな。

どうしよう、折角魔力が戻ってきてるのに車両が壊れたままじゃ何もできないぞ。

そう言えば、魔法生成できる列車は列車の車両編成を自由に伸ばしたり減らしたり出来るって聞いたことがあったな。編成を伸ばしてみようか。まずは1両追加。お、出来たぞ。では、次に壊れた1両を減らして、と。 出来るじゃないか。ではこのまま、全車両を新造車両と入れ替えだ。

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