19話 廃墟の城

 列車を更に城に近づけてみる。沢山の魔物が居るぞ、きっとこの城が問題の城なんだろう。


「城の近く、あの草原の辺りに停車できるか?」

小隊長が下を指さしている。


「でも、魔物が多すぎますよ。停車したら直ぐに囲まれてしまいます。」


「例えそうだとしても、目の前に人質が居るのに逃げる訳にはいかない、我々は王国軍、王国民の最後の盾なんだ。」


それはわかってるけど、流石にこの大量の魔物たちの真ん中に、たった2小隊では、最初から結果が見えてるし、ボク自身も魔物だらけの草原に着陸して、そこからまた離陸できる自信は全く無い。


パキッ。


え? また? あぁっ、半分に割れていた絆石の片割れが更に半分に割れた!


これはもう、タマミちゃんからボクに対する救援信号としか思えないぞ。

えぇい、どうせ展望台から落ちて一度は終わった人生じゃないか。魔法列車であるボクにしか出来ないことを、思いっきりやってみよう。


すると、ボコボコッ。魔力が湧き上がってきて、また体の芯が熱くなってきた。

そうか、行く、行くんだ! えぇい、行け!


「わかりました、小隊長! でも、着陸場所は少し変えましょう!」


ぷわぁぁぁぁぁぁん。

タマミちゃん、聞こえるか! 助けに来たよ!


列車の高度を下げる。よし、着陸場所は、城の中庭のあそこにしよう。

その前に城の周辺にうじゃうじゃいる魔物たちも倒さないと、せっかく中庭に着陸しても救出活動が出来ないぞ。

列車の飛行速度を上げて、城の周囲を旋回しながら周囲の魔物を先頭の槍で貫き刺してやるか!


「小隊長!着陸前に、出来る限り魔物を倒しておいて、救出活動の時間を稼ぎましょう!」


「よし、総員、空中戦闘用意だ!」


大きい魔物から順番に突き刺してやる。

まずは、門の前にいるアイツからだ!


魔物の背中ら胴体へ突っ込んで、槍で穴を開けてそのまま突き進む。


ブチッ。 プギャァァァ。


魔物が倒れる。


よし次、城壁の上にいるアイツだ!

全速で胴体を突き破る。


ふんぎゃおおぉぉ


ババババババババ・・・

ズダーン!


列車のドアや窓からは、小隊が軽機関銃と携帯式ミサイルで列車から離れている魔物を倒していっている。これは空を飛ぶ列車と軍の史上初の共同作戦なんじゃないか?


魔力はボコボコ音を立てて湧いて出てきているのに、それでもどんどん総量が減っていくのは、消費量が大きすぎるということなのだろう。列車が飛行して、かつ魔物を突き刺して戦っているんだから当然か。これはそう長くは続けられないぞ、時間との勝負になるな。


城の周囲を5回ほど旋回したところで、城周辺にいた魔物たちはあらかた片付けられたようだ。


しかし、この騒ぎを聞きつけて集まってきてるのか、魔物は呼び合える力があるのか、遠くの魔物たちがみんな城に向かって進んできている。


これじゃキリがないな。でも、せっかく城内に入っても、後から後からこんなに魔物がやってくるんじゃ話にならない。とは言え、全部を相手にする力も余裕もない。とりあえず、大きな魔物だけでも倒しておくか。


「小隊長、大きな魔物だけでも倒しておきましょう!」


城に背を向けて列車を飛行させる。

城に居た大きな魔物より、更に大きな魔物が6体いる。こいつらだけでも倒しておかないと。


大きな魔物との戦いで戦略はもうわかっている。上空から急降下の加速を利用して一気に突き刺す、だ。


列車の高度をあげながら最初の大きな魔物へ向かう。


よし、射程距離圏内だな、行くぞ!

列車を急降下させる。目標は胴体中央。


行けぇぇぇ!


魔法の槍が魔物の胴体に突き刺さった。

列車はそのまま穴をこじ開けながら突き進む。


ぶぎゃぁぅぅぅ!


腹に大きな穴があいた魔物は大きな悲鳴をあげながら倒れた。


よし、次!


また列車の高度を上げる。

魔物の後ろ側から、一気に急降下!


魔法の槍が魔物の胴体に突き刺さる。


むぎゃぁぁぁぁ


魔物が倒れる。


順調だ、次!


列車の高度を上げて、魔物の後ろ側から急降下。


おっと、魔物が振り返った。

こいつ、今までの魔物より動きが速いぞ。

あ、右手を挙げた、まずい、この速度じゃ、旋回も出来ないぞ。


バババババババ・・・


小隊が魔物の顔に向かって軽機関銃を発射した。


魔物は弾を避けるために手を顔の前に出した。

そうか、今だ!


そのすきを突いて一気に胴体へ。


槍が刺さった。列車は通り抜ける。


ふんぎゃぉぉぉ。


やった、魔物が倒れた。


さすが小隊、ナイスアシストです。助かりました。


これで半分倒した、残りあと半分。


次、もっと高度を取って、急降下の速度を上げよう。


高く、もっと高く! よし、反転急降下だ。魔物の背中めがけて!


魔物が振り向いた。


はやいぞ、こいつも動きがはやい。


バババババババ・・・


小隊の魔物の顔攻撃だ。よし、魔物は顔を手で隠したぞ。

あぁっ、魔物がその場でしゃがんでしまった。


槍は空を切ったまま列車は魔物の上空を通過した。

大きく動かれてしまうと槍の攻撃は難しいんだな。


「我々がヤツの目の前にミサイルを撃ち込む。ヤツにはミサイルも効かないが、目の前で爆発すれば、しばらくは目が見えないので動きが止まるはずだ!」


「了解です!」


バシュッ。 ズバーン!


しゃがんでいる魔物の顔の前でミサイルが爆発した。

魔物は両手で顔をおさえたまま動かなくなった。


今だ!


魔物の背中に槍が突き刺さる。そのまま突き抜けた。


ふぎゃおぉぉぉ


よし、後2体だ、次!


同じように魔物の顔の前でミサイルを爆発させた。

魔物が両手で顔を覆って座り込んだ。


背中に向かって突っ込む。

あぶない! 列車を急上昇させた。

魔物が両手をめちゃめちゃに振り回し始めたのだ。


目が見えないから狙いは定められてないみたいだけど、あんなにぶんぶん振り回されてる腕にあたったら、列車なんか吹き飛ばされてしまう。


次々と難易度があがってくるな。


顔の周りを腕が守ってるなら、下の方、足を狙えば良いんじゃないか?

今の目的は魔物を倒すことじゃ無くて、城での救出時間を稼ぐことなんだから、動けなくなればそれで良いんじゃないか?


よし、列車を低空飛行させて魔物に向かう。案の定、両手は顔の周りでぶんぶん振り回されているので、下はがら空きだ。


ふんぎゃおおぉ


片足を列車が貫き、魔物は転がってしまった。


倒してはいないけど、これでは歩いて城にくることは出来ないだろう。


次、最後の一体!


少し離れた所にいる魔物に向かって、真正面から突っ込んでみる。

魔物も両手を前に出して構えている。


ババババババ・・


小隊が顔への攻撃を開始。

魔物は左手だけで顔を守って、右手の構えは解かない。

こいつら、他の魔物のやられ方を見て学習しているのか?


ババババババ・・

ババババババ・・


バシュッ。 ズバーン!


小隊が顔に向けて一斉攻撃を仕掛けた。

流石の魔物も両手で顔を覆ってしゃがみこむ。

小隊の攻撃が止まらないので、両手は顔を覆ったままだ。


このまま全力で突っ込め!


槍が脇腹に刺さった。列車が突き抜ける。


ふぎゃうぅっぅ


最後の大きな魔物が倒れた。


列車の高度をあげて、城へ向かって全速で飛行する。

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