9話 魔力制御と魔法生成

 「よく眠れたかい? そろそろ出発準備しようか。」

駅員が横に立っていた。


「あ、おはようございます。」

室内灯。あと、一応、お客さんの乗降も見ててね。」

駅員はそう言い残して他のホームへ行ってしまった。この時間が乗客も列車も少ないから複数ホームを掛け持ちで担当しているようだ。


乗降を見てて、とは言われたものの、始発列車で首都から地方都市へ移動する人はあまり居ないようで、ボクの列車も乗客は既に乗車している2人だけ、あとはホームに人影すら無く、確かに、「一応、念のため」見てるって感じだ。


ここのホームは、まだ乗客が2人しか行かなかったけど、相変わらず向こうのホームは大勢の乗客で賑わっている。24時間運行で常に人が多いなんて、どこの路線なんだろうか?


10分後、戻ってきた駅員に尋ねてみた。


「向こうの大勢乗客が居るホームは何の路線なんですか?」


「あぁ、あそこは国際線のホームだよ。フランティック公国、ボノレ王国、ザブラール王国、あと、シャリノル共和国行きの列車が出てるよ。特にフランティック公国の首都フラントとは、1時間に1本の国際特急が走ってるから、ずっと賑わってるよね。こっちの方みたいなローカル線とは違うんだよね。でも、俺はこっちの雰囲気の方が好きだけどねー。ははは。」


そうか、海外の列車たちだから色も形も違ったのか。

さすがは首都のカスティリア中央駅。世界が相手なんだな。


「8番線の列車は、クラクトン・シー行き、普通列車です。間もなく発車します。」

自動アナウンスが流れ、駅員が列車の中央付近に立った。


「普通列車、クラクトン・シー行き、発車します。」

ドアを閉めて出発信号機を見る。


「カスティリアゲートまでは、まだ夜間保線作業の作業員が残っているので、25キロ制限で注意して進行してください。」


「了解、出発、注意進行。制限25!」


駅舎のドームを出ると、朝焼けが始まりかけていた。これが本当のサンライズ列車だね、朝の空気は清々しいし、始発の担当って気持ち良いねぇ。ボクは自然と、お気に入りのコダイコの銀河鉄道99を口ずさんでいた。頭の中には99が地球から飛び立つ姿を思い浮かぶ。この映画、何回みたかなぁ。列車の映画で一番好きだったな。

気持ちよく歌い終わると、更にリラックスしてきて、大きく深呼吸をした。

その瞬間、力を出した訳ではないのに、列車が少し加速した。え?もう一度、今度は魔力の放出を少し抑えてから、深呼吸する。魔力の放出を抑えているのに、かわらず加速を続けている。あ、もしかして、フォースを感じた、いや、これが魔力の使い方なのか? ちょうどこの区間は25キロ制限で速度が出せないこともあって、試してみるのにはちょうど良い場所だ。リラックスして周囲の流れに身を任せるイメージで、おぉ、自分で魔力を放出している時ほどの力強さはないけど、確実に加速している、これだ!わかったぞ!


クラクトン・シーに着くまでに、30キロ程度までなら魔力放出なしで進めるようになっていた。あとはこの魔力制御を訓練し続ければ良いようだ。

いいぞ、ボクは魔法列車として完全復活する日は近いぞ。なるほど確かに、柔よく剛を制すって感じだな(まさに意味不明・・)


その後1週間も普通列車の運用が続き、日々、魔力制御の練習が出来たおかげで、普通列車運用なら最低限の魔力放出だけで運行出来るようになっていた。

流石に乗客が多い時などは魔力放出が必要だけど、今までとは比べ物にならない位疲労が少ない、今までよくあんな無茶な運行でなんとかなってたと逆に自分自身で感心してしまう位だ。


運行に余裕が出来ると、だんだんと乗客の顔も覚えられるようになってきて、最近では少し話をするようになった乗客も出来た。一人は朝、野菜をいっぱい持って、カスティリアまで売りに行ってる人族のおばあさんで、いつも、美味しい野菜の見分け方の話をしてくれる。もう一人はカスティリアの高校へ通ってるネコ族の女の子で、学校での出来事を話てくれるんだ。


車庫でうとうとしていると、ぷわん、と短い警笛が鳴った。

お、この音はもしかして、やっぱり! 9号列車が隣の留置線に入ってきた。


「9号、おつかれさまー。」


「おーっす、17号、元気してる?」


「会ったら報告しようと思ってたんですよ、出来たんですよ、魔力制御。」


「なに、もう出来たの? 凄いじゃんか、あ、いや、オレの教え方が良かったからだな、アハハ。」


「そうですよ、これからは9号師匠と呼ばせて頂きますっ。」


「そうかそうか、弟子よ、流石はオレ様が見込んだだけのことはある。ふははは。」


「師匠、他にも色々とご指導下さいませ。」


「よしよし、可愛い弟子よ。 あ、そういえば、冗談は置いといて、もう一つ、魔力を制御するんじゃなくて、魔力を増やしたり、新たに作り出したりできる、魔法生成っていう法もあるんだけど、それも教えてしんぜよう。」


「魔法生成、へぇ。そんなことも出来るんですか。」


「ただ、これは出来る人と出来ない人が居て、オレは出来ないんだ。っていうか、出来る人の方が特別なんだけどね、一応、魔力トレーニングでも解説はされるんだけど、講師自身も出来ないから、話だけなんだけどね。」


「なんだか凄い技っぽいですね、是非教えて下さい。」


「まぁ、聞いたことの受け売りでそのまま伝えるだけだけどね。自分の属性以外の魔法も、イメージがちゃんと出来れば発動させることが出来るらしいんだ。例えばオレたちは列車だから、走ることは魔力で出来るよね。でも、これ以外のことも、イメージさえ出来れば魔法を発動させることが出来るそうなんだ。」


「えぇ?じゃ、なんでも出来るってことじゃないですか?」


「いや、それがイメージするっていっても、具体的にどうやってイメージするかが分からないんだ。魔法生成が出来る人たちも、人によってイメージしていることが違うらしいんだよ。ある人は原理とか仕組みからイメージしないとダメだって言うし、ある人は強く思えば良いっていうし、信念だ、とかいう人も居るし。要するに、どうやったら魔法生成ができるかは、わかってないってことなんだよね。ただ、わかってるのは、色んな魔法属性があって、例えば、オレたちは走りたいって思えば走れるだろ、それはオレ達が列車だからで、列車属性の人達は何も考えなくても列車が動かせる。魔法船や魔法艇みたいに船舶属性の人たちは、何も考えなくても海の上を移動出来る。それを複数使うことも出来るってことだね。」


「うーん、イメージすれば違う属性の魔法も発動できるってことですね。でも、どうやってイメージするのかはわからない、なるほど、ぼんやりしてますね。」


「そうなんだよ、だから、これが出来る人は特別なんだろうね。でも、ちゃんと教えたぞ、我が弟子よ、ふははは。」


「なるほど、確かに伝授頂きました、お師匠様。」


魔法生成が出来たら面白そうだけど、出来る人はいるけど、人それぞれってことは、9号列車が言ってたとおり、そういう特別な人も居るんだよってだけなような気もする。まぁ、いろんな魔法属性が使える可能性がある、ってことなのかな。

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