8話 最終列車

ぷわん。短い警笛の音とともに9号列車が隣の留置線に入ってきた。


「あ、9号、おつかれさまー。」


「おー、17号、調子はどうだい? なんか思い出したかい?」


「いやぁ、全く、なーんにも思い出さないし、もう諦めてるよ。」


「そうかぁ。それはなんとも。。でも、記憶無くなってから1週間以上経ってるってことは、もう記憶無くても普通の列車ってことだよ、うん。」


普通の列車? あぁ、普通の人って意味か。


「まぁ、そういえばそうなんだけどね。特に困ることもないなか・・ あ、違う、ひとつ困ったことがあったんだ!」


「なんだい、なんだい。何が困った?この物知りお兄さんになんでも聞いてみな。」


「あははは、ありがとう。実は魔力の使い方なんだけど、今日の特急運用で、もの凄く魔力を使っちゃって、帰ってきたらクタクタなんだよ・・。」


「あらら、俺たちって、魔力トレーニングを受けてから営業運用を担当するんだけど、それも忘れちゃってるのか。逆に良くそれで特急運用が出来たね。魔力残ってた?」


「車庫に戻ってきたとき52しかなかったよ。」


「うひゃぁ、それはヤバかったね。そうかそうか、そりゃ困ってるだろうよ。ではトレーニングしてしんぜようか。 多分17号が魔力を使うときって、絞り出してるというか、放出しているというか、気合いで出してるというか、踏ん張ってるみたいな感覚でしょ? って、あれ?オレって説明下手だなぁ。」


「いや、わかるよ。筋トレするみたいに力入れて魔力出してる。」


「あ、それそれ、力入れて出してる、それが言いたかったんだよ、あはは。でね、それダメ、絶対。」


「え?そうなの?」


「そう。ここ重要だからもう一度言っとくね、ダメ、絶対。 魔力って放出しようとすれば簡単に放出できちゃうんだよ。でも、そうするとすぐ無くなっちゃんだ。ま、もう経験してるか解るよね。」


「うん。わかる!」


「では、魔力はどうやって使うか。この世界には多くの魔法力がある。魔法バス、魔法トラック、工場の機械だって魔法で動いている。空気、風、周囲の木々にだって、わずかだけど魔力は宿ってる。 そこでだ、魔力を使うというのは、自分の魔力を放出するのではなくて、周囲の魔力を感じて協力してもらう、共鳴するようなイメージで使うんだよ。ちょっと言葉だけで説明するのは難しいけどね。」


「周囲の魔力に協力してもらうイメージ?」


「そうだなぁ、流れに任せる、みたいな感じかな? こちらから勢いよく向かっていくんじゃなくて、相手の力を利用する、そう、柔よく剛を制す的な?」


「なんで急に柔道になっちゃったのかわからないけど、言いたいことはなんとなくわかる気がする。」


「まぁ、言葉ではこれしか伝えられないから、後は試してみてよ。そうだなぁ、フォースの流れを感じろってイメージだよ。」


「相変わらず例えがなんか微妙だけど、ありがとう、やってみるよ。」


ということは、ボクの魔力の使い方は完璧に間違ってるってことだよな。これは早速明日から試してみないと。あぁ、そういえば、明日の運用はこっち発の最終列車だったな。翌朝のカスティリア中央始発列車で戻ってくるので、カスティリア中央のホームで留置なんだよな、あの大きなドームのターミナル駅に泊まるってどんな感じなんだろう。初めてのお泊り、ちょっとワクワクしちゃうな。


 翌日、早速魔力の使い方を練習してみた。周囲の魔力に協力してもらう、フォースの流れを感じる、えぇぇい、全然出来ないよ。なにが柔よく剛を制すだよ、全然意味わからないし・・。「柔の道は一日にしてならないんぢゃ」でも読んでみるかな。とりあえず、魔力出すときに力むのを止めてみた。軽く魔力を出す感じ? でも、それだとただ単に列車の加速が悪くなるだけだった。なんか違うな・・。やっぱりこういうのって、説明聞くだけじゃなくて、実際に体験してみないと理解し辛いよね。とは言っても、記憶無いからもう一度魔力トレーニングしてくれなんて言ったら、速攻で営業運用から外されちゃうだろうしなぁ。


結局ヒントすら掴めないまま、カスティリア中央に到着してしまった。これは、魔力の使い方を思い出すのは相当大変そうだぞ。


最後の乗客が下車したことを確認して、ドアを閉めて室内灯を消灯した。さて、後は駅が閉まったら寝るとするかな。それまでは久しぶりに都会人のヒューマンウォッチングでもしますか。いやぁ、ホント、都会は色んな人種が居るよなぁ。クラクトン線の乗客は、人族、ネコ族、イヌ族みたいな基本人型の人達が多いけど、都会には2足歩行はしてるけど、恐竜っぽい人や鳥の足っぽい人達も居るんだよなぁ。あとはやっぱり服装が違うんだよね、洒落てるというか、垢ぬけてるというか。

そういえば、さっきから向こうのホームには列車が入ってくるし、出て行ってるけど、あっちの路線は終電が遅いのかな? あっちの列車はボクたちとは形もちょっと違う風にも感じるけど、なんだろう? 考えてるうちにうとうとし始めて来たぞ。


他のホームの発車アナウンスで目が覚めた。結局、眠ってしまっていたようだ。ん?まだ終電じゃないのか?時間は、深夜3時過ぎじゃないか、これはもう終電だか始発だか微妙な時間だよ。あ、今気が付いたけど、ボクのホームのように、乗客も駅員も居ないホームと、向こうのホームみたいに、普通に乗客も駅員も居るホームの2種類あるな。もしかしたら、あの路線は24時間運行なのかな?そうだとすると、この駅は閉まることも電気が消えることも無いってことだよな、そうなら気にせず寝てしまおう。

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