6話 上り特急列車
鳥の鳴き声で目が覚めた、訳ではなく、出発信号機の音程の外れた歌だか読経だかわからない声で目が覚めた。
「出発信号機さん、何なんですか朝っぱらから、その歌だか読経だか・・。」
「お、おはようさん。朝っぱらって、もうとっくに9時だけどね。これは俺の発声練習、らららいひ~。」
え?あちゃぁ、もう9時だ。しっかし良く寝てたってことだな、ボク。やっぱり疲れてたんだな。
「それより、17号くんはそろそろ出発じゃないのかね? ララララ~。」
出発信号機はまだ歌だか読経だかを続けている。
本当だ、確かクラクトン・シー発が9時30分だったはず。
「9時30分発ですよね?」
「そうだよ。準備が出来てるなら出発確認するよ?」
「はい、もちろん準備オーケーです。さっきから出発許可をまってたんですよ、なんちゃって。」
「おいおい、17号列車に督促されちゃってるよ、ちょっと待っててよ。」
出発信号機が笑ってる。
「はぁい、大変長らくお待たせ致しました、優等列車担当の17号列車さま。制限速度30キロで出発許可させて頂きます。」
笑いをこらえてるので信号機が震えている。
「うむ。余は満足じゃ。出発、進行、制限30!」
「殿、お気をつけてー。」
まだおちゃらけている出発信号機を後にして出発した。
気合入れないと、今日はなんたって特急運用だからな。
クラクトン・シー駅のホームに入線すると駅員が寄って来た。
「あれ?ちょっと早めじゃない?」
「17号列車に急かされたって列車区の出発信号が言ってたでー。」
出発信号機がからかってきた。
「そんなことないですよ。ちょっと寝坊して、目が覚めたら出発時間近かったんで、焦っただけですよ、もう。」
「え?今まで寝てたの? 良く寝るねぇ、寝る子は育つよー。」
駅員にもからかわれてしまった。
3人、いや、1人と1列車と1信号機? で、少し雑談をした後、駅員が列車の中央方向へ向かって行った。
「特急列車のカスティリア中央行き、停車駅は、クラクトン、セントブリッジ、そして終点のカスティリア中央です。間もなく発車しまーす。」
「特急列車カスティリア中央行き、ドア閉まりまーす。」
ピピー。 駅員が笛(呼子)を鳴らして、ボクに右手を振った。
ドアを閉めて出発信号機を見る。
「特急運行も安全運行で頼みますよー。制限速度は60キロで進行許可します。」
「出発、進行!」
クラクトン駅に到着。ホームには、大きなカバンを持った乗客が多く待っていた。
なるほど、クラクトン・シーが始発だけど、列車区があるから運用上始発になってるだけで、実際はクラクトンが始発なんだな。まぁ、ここがクラクトン州の州都の駅だしな。
「特急列車、カスティリア中央行き。 終点のカスティリアまで、途中セントブリッジに停車します。間もなく発車になりまーす。」
駅員が乗客の大きなトランクケースを車内に入れるのを手伝っている。うん、古き良き時代の優等列車って感じで、旅情を感じさせるよね。
「カスティリア中央行き特急列車、発車しまーす。」
ドアを閉めて、出発信号機の合図を待つ。
「17号列車、ここから本格的に特急運行開始です。制限速度は100キロまで開放します。進行許可!安全運行で行ってらっしゃい!」
「了解!出発、進行!」
計器盤の速度計を見る、ちょうど通常運行の制限速度、60キロ。さぁ、ここからが特急運行だ、更に加速を続ける。正面に空気の抵抗が凄いぞ、かなり力入れないと加速していかない。自分自身でも感じる位に魔力をつかってるのがわかるな。
ようやく100キロ到達。風切り音で周囲の音が聞こえない、まさに風を切って走ってる感じがする。
カタタタンッ、カタタタンッ。
レールのジョイント音も最高に良い響き、そうか、これが特急なんだな。ボクは風になったよ、姉さん。(意味不明)
サンモルジア駅を通過、次の駅がセントブリッジ、特急停車駅だ。減速タイミングを間違わないようにしないとな。
セントブリッジに停車した。ふぅ、いやぁ、予想より全然気持ちいんだけど、予想以上に疲れるもんなんだな。
「1番線はカスティリア中央行き特別急行列車です。終点、カスティリア中央まで停車駅はありませんのでご注意下さい。間もなく発車になりまーす。」
ドアを閉めて、出発信号機を見た。
「最後、終点までもう一息、頑張って行きましょう、制限速度開放、100キロ。進行許可します。」
「了解! 出発、進行!」
加速、加速、パワーを込めて、うぉぉぉぉ。
周囲の音が変わった、ここだ! 速度計を見ると90キロを超えた所だった。やはり、この感覚なんだな、風になる感覚。もう覚えたぞ、そしてやっぱり、気持ちが良くて最高だぁ。ぷわん。うれしくて警笛を軽く鳴らしてしまった。
カタタタンッ、カタタタンッ。
カスティリアゲート駅を通過、速度を落として終着駅に備える。見えてきた、カスティリア中央の大きなドーム型の駅舎だ。普通列車で2回ここまで来たけど、特急運行してここにくると、更にこの駅舎が味わい深く見えるよな。まさに終着駅って感じだもん。
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