5話 始発列車
時刻は6時。始発列車のクラクトン・シー駅発車時刻は6時20分。そろそろ車庫を出る時間だよな。
周囲の列車たちはまだ眠っているようだ。
出発信号機が進行表示に変わった。
「17号列車、おはよーさん。今日は準備万端みたいやね。昨日は相当寝ぼけてたみたいやったけどな。あはは。」
早朝だからか、かなり小さな声で話かけてきた。
「おはようございます。いやぁ、今日はバッチリですよー。」
ボクも小さな声で返事をした。
「じゃ、今日も頑張って行きまひょか。17号列車、速度制限30キロで進行許可どす。」
「あの・・何で今日は関西弁なんですか?」
「関西弁とちゃいます。京都弁どす。」
「では。。なんで京都弁なんですか?」
「そーだなー。特に意味は無いけど、強いて言えば、そうだ京都、行こう。だな。うん。よっしゃ、もう一度。速度制限30キロで進行許可! 始発列車は路線の一番槍だ! 進めー!」
「あはははは。了解、出発、進行。制限30!」
車庫の出発信号機、確かに個性的だ。意味もわからないし濃い感じだけど、楽しい人、いや、信号機だ。
クラクトン・シー駅に入線する。おぉ、ホームには既に乗客が待っているぞ。皆カスティリアへ通勤、通学するんだろうな。なんだか皆に待たれてると列車としてモチベーションが上がってくるよね。
「おはよう、今日も1日よろしくねー。」
駅員が声をかけてきた。確かに駅員達は優しくてフレンドリーだわ。
「カスティリア中央行き始発、普通列車は間もなく発車しまーす。」
駅員の笛の合図を待ってドアを閉めて、出発信号機を見る。
「おーい、17号列車、今日は元気みたいだね。元気なのは良いことだよ。元気があれば何でも出来るって昔の偉人さんも言ってたさ。では、カスティリア中央まで安全運行で頼みますよ。17号列車、速度制限は60キロで進行許可!」
「了解! 出発、進行! 制限60!」
やっぱり出発信号機って、個性的なんだな。
お、側線に貨物列車が止まってるぞ。ボクの後に出発するって言ってた貨物列車だな。魔法機関車は、あ、居た。JR貨物の桃太郎みたいな青い車体でかっこいいな。
「ぷわん」ボクは軽く警笛を鳴らして合図してみた。
「ふぃーん」魔法機関車も返事をしてくれた。機関車らしい、甲高いホイッスルの警笛、音までかっこいいじゃないか。
クラクトン駅に入線する。ホームにはクラクトン・シー駅よりも多くの乗客が待っていた。シー駅はクラクトン州の突端の海岸駅で、こちらが州都の駅なのだから当然ではあるけれど、こんなに大勢の乗客を見るとモチベーションが更にあがる。ただ、同時に、なんだか責任の重さを感じて緊張もしちゃうよね。
「始発列車のカスティリア中央行き、普通列車でーす。発車しまーす。」
ピピー。 駅員が笛を鳴らして、右手を振った。
ドアを閉めて出発信号機の指示を待つ。
「17号列車、60キロで進行許可、行ってらっしゃい。」
「出発、進行! 制限60!」
乗客が多いと列車が重くて、かなり踏ん張って魔力を使わないと加速していかないな、これは結構しんどいな。
カタン、コトン。カタン、コトン。
セントブリッジ駅に到着した。
ここは、セントブリッジ州の州都の駅だけあって、乗客の3割位がここで下車したが、それと同じ位、いや、それ以上に乗車してきた。そういえば、ここが特急の唯一の停車駅だったよな。覚えておかないとね。
その後、途中駅でも多くの乗客が待っていて、多くの乗客が立席になり、これは列車としては嬉しい悲鳴なんだけど、やはり立席の乗客が多いと運転、特にブレーキには気を遣うので、結構疲れるんだな。
カタン、コトン。カタン、コトン。
カスティリアゲート駅に着いた。
ここでも3割位の乗客が下車した。まぁ、この駅はもう首都カスティリアだから、この辺で働く人たちも多いってことなんだろうな。これで最後、終点までもう一歩だ。
カスティリア中央駅の停車位置へ停車。
「カスティリア中央。カスティリア中央。ご乗車ありがとうございました。中央改札は2階、お乗り換えは1階通路をご利用下さい。」
自動アナウンスが流れる。都会の駅だよねぇ。
駅長がやってきた。
「相当お疲れな顔をしているね。今日はお客様多かったからかな。折り返しまで1時間、ゆっくり休憩してね。」
流石駅長、わかってらっしゃる。そうなんですよ、乗客が多いと、無茶苦茶疲れるんですよ。
出発までの1時間、昨日のようにヒューマンウォッチングをすることもなく、目を閉じて体力の回復、いや、魔力の回復を優先させた。
1時間後、駅員がやってきた。
「じゃ、そろそろ折り返しでクラクトン・シーまで頼むね。」
「8番線の列車は、クラクトン・シー行き、普通列車です。間もなく発車します。」
自動アナウンスの出発案内が流れた。
「普通列車クラクトン・シー行き、発車しまーす。」
ピピー。 駅員が笛を鳴らして、ボクに右手を振った。
ボクはドアを閉めて出発信号機の方を見る。
「17号列車、制限速度60キロで進行許可!」
相変わらず、都会の出発信号は事務的なんだな。
「出発、進行! 制限60!」
カタン、コトン。カタン、コトン。
折り返しでカスティリア中央を発車して約1時間、セレスティア駅に到着した。
「セレスティアー、セレスティア。ご乗車ありがとうございまーす。2番線の列車はクラクトン・シー行き普通列車でーす。特急列車の通過を待って発車しますので、10分少々お待ち下さーい。」
おぉ、ここで通過追越なんだね、なるほどなるほど。
駅員が近づいてきた。
「お疲れさん、特急通過待10分停車、ちょっと休憩ね。あ、そういえば近々王族の視察がクラクトン州に行くらしいって噂を聞いたよ、どこまで行くのかは解らないけどクラクトン線に王室専用列車が来るってことだよね。」
「へぇ、王室専用列車。どんな感じなんですか?」
「ピアノブラックって言うのかな、光り輝くような漆黒の黒に黄金のラインが入ってて、めっちゃかっこいいんだよ。オレも乗ってみたいよなー、って王族じゃないから一生無理だけどね あははは。」
色々と雑談しているうちに特急列車が近づいてきたようだ。
ぷわぁぁぁぁん。
美しい警笛の音を残して特急列車が通過していった。やっぱり特急は列車の花形だよな。明日はボクが担当するんだな、今からドキドキしちゃうよ。
クラクトン・シーの停車位置に停車させ、乗客を降ろしてドアを閉めて消灯して出発信号機を見る。
「始発当番おつかれさんだったねー、クラクトン・シー列車区まで制限速度30キロで進行許可だよ。」
「ありがとう、出発、進行、制限30!」
車庫場内信号機が見える、表示は停止。
「17号列車、お疲れさん。明日は特急運用だから留置線に入る前に洗車機線行って準備しないとな、注意して進んでくれ。」
おぉー、特急運用の時には洗車されるのか、流石花形列車だね。
洗車機には係員が居て、ボクが洗車機に近づくと洗車機のスイッチを入れてくれた。
ブシャシャシャシャ・・・ 左右のブラシが回り始める。
プシュ― 洗剤が噴射される。
これって、ガソリンスタンドの自動洗車機の長い版だね。
ドラマだと、この時に車の中で男2人が密談したりしちゃうヤツだよね。
おー、左右のブラシが気持ち良い、手が届かない所を掻いてもらったような感じ?
ボクは洗車を終えて、また車庫内信号機の所まで戻って来た。
「うん、綺麗になったね、これで明日の特急運用はバッチリだな。今日は3番留置線だよ。注意して進んでくれ。」
3番留置線にはバケツ、モップ、掃除機等を持ったチームが待っていた。
そうか、特急運用の際に車外、車内の清掃がはいるんだな。
えぇと、スケジュールを見てみよう。あぁ、なるほど、大体1週間に1回特急運用が
回ってくるんだ。これって特急運用だから清掃というより、逆に清掃の順番の列車が特急運用してるってことじゃないのか?
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