4話 9号列車
ぷわーん。短い警笛が響いて隣の留置線に列車が入ってきた。
先頭窓の下に「9」と書かれている。あ、これが列車名?ということは、ボクには17って書いてあるのかな?
「お疲れ様ー。」
声をかけてみた。
「おー、お疲れー。戻りは満席だったんで疲れたよー。」
話しやすそうな人、いや、列車だな。ちょっと相談してみようかな・・。
「あのさ、折り入って相談したいことがあるんだけど・・。」
「お? なに、17号、どうした?」
「あのさ、実はさ。驚かないでね、ボクさ、記憶がちょっとおかしい、というか、今朝目覚めた時より前のことが思い出せないんだ。」
流石に、無人駅で列車待ちの間に展望台へ上ってて、柵が折れて、落ちて、という部分は言うのをやめた。単に記憶喪失の方が理解されやすいと思ったからだ。
「はぁ? それ、マジで言ってる? 冗談とかドッキリとかじゃない?」
「うん。冗談じゃなくて、結構困ってるんだよ。」
「おいおい、マジかよ。記憶喪失ってこと?」
「そうかもしれない。今朝目覚めたら、ボクが誰かもわからなかったんだ。」
「えー、でも17号、今日は運行あっただろ? どうしたんだ?」
「とりあえず、信号の指示通り走ったけどさ、信号、標識、駅の場所が全然わからないからすっごい緊張だったよ。」
「まじかー。信号通りに走れば良いんだけど、路線状況わからないって辛いよな。その状態で客乗せて営業運転したのか、そりゃキッツイな。」
あー、話してよかった。解ってもらえたみたいだ。正直、涙が出そうだよ。でも、列車だから涙は出ないだろうけどって、話を続けよう。
「でさ、ボク、明日は始発らしんだけど、例えば運行ダイヤとか列車種別とか、基本的なことから教えてもらえないだろうか?」
「なるほどねー。しっかし17号は真面目だなぁ。記憶喪失になったなら、それを報告したら休車扱いにしてもらえるんじゃないか?」
そうか、それもありだな。でも・・
「そうなんだけど、走ってるときは気持ち良いんだよね。」
「あははは、17号もやっぱり列車馬鹿なんだな。一度運行を経験したらやめられないよなー、わかるわかる。」
「列車馬鹿かぁ。」
お、一句読めたぞ。乗り鉄が、転生したら、列車馬鹿。 お粗末様でした・・。
「別に馬鹿にしたつもりじゃないぞ、オレも列車馬鹿だしな。あははは。じゃ、ざっと説明しようか。とは言っても、オレ、あんまり説明上手じゃないから、わからないこと、聞きたいことをバンバン聞いてくれよ。」
「ありがとう、助かるよ。」
「おー、まかせといて。じゃ、簡単に俺らの鉄道についてから始めるよ。ここはエンチャンティア王国、首都はカスティリア。俺らが居るのはクラクトン州で、ここ車庫があるのはクラクトン・シー。綺麗な海岸がある街さ。」
「綺麗な海岸って、9号は見たことがあるのかい?」
「あぁ、あるよ、1回だけだけど。17号も行ったことあるはずだぞ。」
「海岸まで線路があるってことかい?」
「いやいや、線路はこの車庫までしかないよ。そうか、それも分からないのか。じゃ、俺たちのことから説明した方が良いのかな? 俺たちは魔法列車、魔力を使って走るんだ。列車だから線路の上を魔力で走れるのは当然だけど、大きな魔力を使えば線路の上以外も走れるぞ。ただ、線路の上以外を走るのは本当に凄い量の魔力を使うんで、普通は線路の上しか走らないけどね。ちなみに、ここから海岸を見て帰ってくるだけで、俺の魔力は1桁しか残ってなかった、やばかったよ。」
「線路の上以外も走れるのか。凄いな。」
「あ、念のため、線路の上以外で魔力ゼロになってしまったら、俺らは自力では動けなくなるので、一生線路の上から出ない人も多い位だぞ。海岸を見に行った俺らは、結構チャレンジャーってことだよ。」
「あれ? 魔力は休憩していると復活するんじゃないのかい?」
「あぁ、俺たち列車は線路の上に居る時だけ魔力が復活するのさ。魔法バスとか、魔法トラックは道路の上でも魔力が復活するけどね。」
「なるほどねー。」
「次は路線の話な。エンチャンティア王国には鉄道の本線が7路線、首都カスティリアには路面電車も走ってる。で、俺たち列車は基本的には同じ路線を担当し続けてる。俺も17号も、ずっとクラクトン線を担当してるね。まぁ、中には路線を転属する列車もあるけどな。 次に列車種別だけど、クラクトン線には各駅の普通列車と特急列車があって、専用の列車があるわけじゃなく、ダイヤと俺たちの出勤スケジュールで割り当てられる。で、問題のダイヤ、スケジュールは俺らの計器盤の本みたいなボタンを押すと表示される。ここまではオッケー?」
「そうなの? 計器盤の本のマーク、あ、これか。おぉ、ダイヤが出てきた。で、ボクは、あぁ、やっぱり、明日の始発にボクの名前が入ってる。そういうことか!」
「鉄道と列車のことは、この位かな? 後は、雑ネタ的なことかな。ここの駅員達は優しくてフレンドリーな人が多いな。信号機はちょっと癖が強いというか、個性豊かだね。乗客の流れは、朝は首都へ通勤、通学の人、夕方以降は首都から帰宅する人っていう感じだよ。あ、あと、クラクトン・シーには俺らの車庫とは別に、貨物ターミナルがあって、そこには、貨車と魔法機関車達が居る、たぶん、運行中に見かけたんじゃないか?」
「貨物列車? いや、見かけなかったよ。」
「そうか? まぁ、明日が始発担当なら、会うと思うぞ。俺らの直ぐ後に朝市用の貨物列車のダイヤが組まれてるからさ。」
へぇ、明日は貨物列車に会えるのか、魔法機関車ってどんな感じなんだろう。後は、ボクの明日以降のスケジュールを確認してみよう。
「9号、ありがとう。なんとなく掴めてきたよ。またわからないことがあったら教えてよ。」
「おー、遠慮せず、いつでも聞いてな。」
ボクは早速ダイヤの確認を始めた。明日は始発、その後は運行なし。そうか、1日1往復が基本なんだな。次のボクの特急担当は、あ、明後日だ。わくわくするな、でも、明日の運行で特急停車駅を確認しておかなきゃ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます