3話 復路

「カスティリア中央。カスティリア中央。ご乗車ありがとうございました。中央改札は2階、お乗り換えは1階通路をご利用下さい。」


ほう、この駅は自動アナウンスなんだな。じゃ駅員は来ないってことかな? いや、こっちに向かってきてるぞ。帽子に金のラインが入ってるから、駅長さんだろうか?


「17号列車、無事故運行、ご苦労様でした。30分後の出発まで、ゆっくり休憩して下さいね。」


なるほど、折り返しの発車は30分後なんだな。

ボクはゆっくりと駅構内の観察をすることにした、特に人物観察。運転中は運行に集中していてあまり見られなかったけど、あきらかに人ではない乗客達が居たんだ。

赤い髪留めを付けた制服っぽい姿の女の子は学生だろうか、大人の男性は腰に短剣を帯刀してるみたいだな。あ、いたいた、ネコだ、全身毛むくじゃら、と言っても制服を着てるので、制服の中まで毛むくじゃらなのかは知らないけど、猫耳、手足は毛むくじゃら、しっぽも生えてる制服の女の子(メスネコ?)、要するに、制服を着て、赤いリボンを付けた猫が2足歩行している。こちらの2人組は厳つい制服、たぶん、軍人とか警察とか、治安を守りますよ系の人なんだろう、わかりやすい恰好だな、なるほど、帯刀しているのは長剣だ。あ、犬だ、犬の親子だ。あの人は熊?熊は大きいなぁ。うお、こちらは人型だけど全身緑色、あ、向こうには青色の人もいるぞ。基本的にはみんな2足歩行で人型なんだな。


「17号列車、そろそろ時間ですね、クラクトン・シーまで安全運行でお願いしますね。」

いつのまにか駅員が隣に立っていた。ボクは相当集中して人間、いや、生き物ウォッチングをしてたようだ。


「8番線の列車は、クラクトン・シー行き、普通列車です。間もなく発車します。」

出発案内も自動アナウンスなんだ、さすが、都会の駅だなぁ。

このアナウンス、実はどこかのテレビ局の有名なアナウンサーさん、とか、鉄道トリビアみたいなことがあったり、しないのかなぁ、なんて、常に鉄魂だな、ボクは。 


「普通列車クラクトン・シー行き、発車しまーす。」

ピピー。 駅員が笛を鳴らして、ボクに右手を振った。

ボクはドアを閉めて出発信号機の方を見る。


「17号列車、カスティリアゲートまでは保線工事中につき40キロの速度制限で進行許可!」

都会の出発信号は事務的で、ちょっとフレンドリーさが無い感じかな。


「出発、進行、制限40!」

帰宅時間なのだろうか、車内はほぼ満席になっている。反対方向とはいえ、一度運行した路線なので、少し余裕を持って走れているが、重量が違ってるからブレーキとか気を付けないといけないな。


カタン、コトン。カタン、コトン。


往路と同様に、約2時間かけてクラクトン駅まで戻ってきた。次が終点のクラクトン・シーだ、たった数時間しか経過してないけど懐かしい風景だ。ボクの輝かしい営業運転の始まりの場所だしね。


駅員が寄って来た。

「17号列車、最後の一駅、安全運行でお願いしますね。」


「普通列車クラクトン・シー行、発車しまーす。」

ピピー。 駅員の笛を確認してドアを閉め、出発信号をみた。


「17号列車、最後の一駅、ご安全にねー。制限60キロで進行どーぞ!」


「出発、進行、制限60! 次は終点クラクトン・シー!」


踏切を超えて、小さな鉄橋を渡って、見えた!・・駅だ。


場内信号は進行を示している。

「場内、進行!」


ボクがゆっくりと停車位置へ止めると、駅員が近寄ってきた。

「17号列車、お帰り、お疲れさんでした。後はゆっくり休んでね。あ、明日は始発列車当番でしょ、よろしくね。」


なるほど、ボク、明日は始発列車なんだ。運行スケジュールとかは誰に聞けば良いんだろうか? 車庫に戻ったら聞いてみよう。


「2番線の列車は車庫に入りまーす。ご乗車にはなれません。ドア閉めまーす。」

駅員が右手を振った。


ドアを閉め、室内灯を消灯して、出発信号機を見た。


「17号列車、クラクトン・シー列車区まで制限速度30キロで進行許可、おつかれさまー、また明日ね。」


「出発、進行、制限30!」

今日最後の運転だ、気合い入れて行こう。


車庫場内信号機が見えた。お、表示は停止だ。停車、停車、と。


「おつかれさん、17号列車。君の今夜の宿は8番留置線だ。では、注意して進んでくれ。」


「了解、場内、注意!」


8番留置線にはヘルメット姿のメカニックが3人待っていた。

「おつかれさん。今日は足回り点検をするよ、何か気になる所はある?」


「いえ、特に気になるところはないです。あ、魔力量が76に減ったんだけど、これはどうやったら戻るのかな?」


「え?魔力量が減った?そりゃ運行したからでしょ。なにそれ、オレ今日は忙しかったんだぜアピール? ハイハイ、お疲れ様でしたねー、しっかり休んで、魔力量を戻して、明日は始発での運行お願いしますね、17号列車さま。」


メカニックが笑いながらボクの前面をバンバンと叩いた。

なるほど、やはり動力は魔力、動くと消費して、休憩していると補填されていくものらしいな。


メカニックは2時間程かけて点検をした後に帰っていった。

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