2話 カスティリア中央
駅名標には「クラクトン・シー」と書かれている。シーってことは海が近いんだろうなぁ。
駅員がアナウンスしながらボクの方へ向かって来ている。
「1番線の列車は普通列車のカスティリア中央行きでーす。カスティリア中央まで各駅に停車しまーす。間もなく発車致しますので、ご乗車になってお待ちくださーい。」
そうか、ボクはカスティリア中央行きの普通列車なんだな。
「17号列車、お疲れさん、今日もよろしく。そろそろ発車しようか。」
駅員がボクに話しかけたあと、そのまま列車の中央付近へ行ってしまった。
「普通列車カスティリア中央行き、発車しまーす。」
ピピー。 駅員が笛(呼子)を鳴らして、ボクに右手を振った。
なるほど、これがドア閉合図なんだな。ボクはドアを閉めた。
出発信号機が呼びかけてきた。
「おーい、17号列車、列車区の出発信号機が、君のこと心配してたぞ、なんだかぼーっとしてたって。もう大丈夫かい?」
「ありがとう。色々と訳がわからないことが起きてるんだけど、とりあえず、ここまでは走ってこられたよ。」
「オーケー、オーケー。何があったかは知らないけど、カスティリア中央まで安全運行で頼みますよ。じゃ、行こうか。17号列車、速度制限は60キロで進行許可します。」
「了解です。出発、進行、制限60!」
カスティリア中央がどこなのか、どれくらいの距離なのかも全然知らないけど、線路は続くよどこまでもだ、と。
計器類を見る。速度が60キロで、魔法量が127。ん?魔法量が減ったな。まさかと思うけど、この列車って魔法で動いてるのかな?
カタン、コトン。カタン、コトン。
線路の継ぎ目を通過する音が気持ちいい。線路の上を走るって、なんて気持ちだ良いんだろう。小さな鉄橋を渡って、踏切を通過して、ボクは風だ、風の列車さ。 展望台から落ちたなんてことは、もう過ぎたことだ、今を楽しもうじゃないか。ボクは完全に現実逃避モードに入った。
ただ、ボクは列車として大きな不安があった。本来、列車の運転士は運転路線の駅、信号、標識の場所等を把握して運転しているのだが、ボクは初めて走っているので、どこに駅があるのかすら知らないのだ。駅を通過してしまわないように必死で線路の先の駅を探しているけど、カーブの先でいきなり駅、とかだったらどうしよう、と。
本来、停車駅の心配より、ボクは何で転生して列車になったのか、ということを心配するべきなのだが、鉄魂の方が強いようで、転生したこと自体、無視されている。
人生より、鉄、これぞ鉄ヲタの性、恐るべし鉄魂。
線路の先に駅が見えた。ボクは各駅停車の普通列車だから停車駅だな。快速や特急だったら、停車駅わからなくて困っただろうな、と、ボクは列車としての思考が優先されはじめていることに笑ってしまった。
ホームの停車位置に停車させた。駅名標には「クラクトン」と書かれている。
「到着の列車はカスティリア中央行き普通列車でーす。」
同じように駅員がボクのそばにやってくる。
「お疲れ様。出発準備お願いしますね。」
やはり同様に列車の中央付近へ向かって行った。
「普通列車カスティリア中央行き、発車しまーす。」
ピピー。 駅員が笛を鳴らして、ボクに右手を振った。
この世界では、これがデフォルトの出発手順なんだな、一つ覚えたぞ、と。
ということは、次は・・・。
「17号列車、60キロで進行許可、行ってらっしゃい。」
やはり出発信号機が喋った。うん、このルーチン、理解したぞ。
「出発、進行、制限60!」
ボクの走りは快調だ。やはり鉄道は最高だ。ボクは乗り鉄なので、自分で走るんじゃなくて、乗りたい派だったんだけど、走ってみたら気持ち良い。転生したら列車だったって、最高じゃないか。ぷわーん、ぷわーん、嬉しくて警笛を鳴らしてしまった。
ぷわん。 お、列車? カーブの先から対向列車が表れた。
あ、ボクが嬉しくて鳴らしてしまった警笛に反応してるんだ、ちょっと恥ずかしいな。。
カタン、コトン。
クラクトン・シーを出発して約2時間、だんだんと車窓が都会っぽくなってきて、次の駅が24駅目。
「カスティリアゲート。カスティリアゲート。ご乗車ありがとうございまーす。次は終点カスティリア中央でーす。」
なるほど、次がカスティリア中央、ようやくゴールが見えてきたな。
「17号列車、最後の一駅、ご安全にお願いしますね。」
駅員はそう言うと、列車の中央付近へ移動していった。
「普通列車カスティリア中央行き、発車しまーす。」
ピピー。 駅員が笛を鳴らして、ボクに右手を振った。
ボクはドアを閉めて出発信号機の合図を待った。
「17号列車、ここからカスティリア中央駅まで、保線工事中なので、40キロ制限で注意して進行してくださいね。」
「了解です。出発、進行、制限40、保線員注意!」
25駅目、遂に終点の駅が見えてきた。流石都会の終着駅だ、大きなドームで格好いいじゃないか、こんなところに停車できるなんて列車冥利につきるってもんだ。
巨大なドームは部分的にステンドグラスがはめられ、柱も壁もレンガ造りの重厚さと相まって、とても荘厳で、まさに終着駅という感じだ。ボクはゆっくりと停車位置ピッタリで列車を止めた。
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