お人形

 うさぎのぬいぐるみを買ってもらった。

 ふわふわで小さくてあったかい。リアルにできてるから、食べたり動いたりもできるらしい。

 

 毎日ちゃんとご飯あげてね。

 週に一回ブラッシングしてね。

 ときどき爪も切るんだよ。

 大切にしてあげてね――。

 

 ぬいぐるみをくれたおばあさんが、私の目を見てそう言った。

 なんだか怒ってるみたいだった。

 

「本物のうさぎじゃないのに、なにを言ってるの? 面白い人ね」

 わたしがそう言うと、おばあさんは慌てたように家を出て行った。

 

 ぬいぐるみを撫でる。

 ふわふわ……息をしているみたいに、体が大きくなったり小さくなったり。

 お部屋の中、たくさんの綺麗なお洋服。おいしいご飯に、ふかふかお布団。

 わたし、恵まれてるわ。

 

 でも、学校には行かせてくれないの。野蛮な人ばかりだから行ってはダメよ、って言って。二人のお兄さんも、お姉さんも、私よりちいさな弟だって、学校には行っているのに。

 

 今日もわたしだけ、お留守番――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る