また来てやろうと思った。

 涙を滲ませて、頬を赤らめている。

 ひゅう、ひゅう、と苦しそうに息を吐き出している。

 ときどき体がぴくっと震えて、とてもつらそうだ。可哀想に。

 

 とろりと液がこぼれてくる。白濁した体液。

 こんな風にしか、この子は生きられないんだ。

 

 可哀想に。

 

「今日はありがとう。また来るよ」

 

 奥の部屋に声をかける。

 この子丶丶丶の持ち主。偉そうな男。

 

 返事はない。

 しゃがみこんでみる。

 

「ねえ、君。名前はなんて言うのかな」

 

 返事はない。

 

 虚しい場所もあったものだ。誰とも会話が成立しない。

 俺は床に金を置き、そのまま立ち去った。

 

 扉の向こうから怒鳴り声が聞こえる。

 怒られてるなあ、コレは。俺を無視したせいで。

 自分も無視した癖に棚に上げて、お客様を無視するとはどういうつもりだと怒鳴りつけているんだろう。

 

 ああ、本当に――可哀想な奴だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る