KAC20231 本屋
@wizard-T
鷲に迫られた先
ったく、どうして鷲に襲われなきゃならないの!
そんな事を叫ぶ事もできないまま、私は走っている。
本当に、どうしてこうなったの!
同級生男女二人ずつで行ったキャンプ。そこで私は清水君にプロポーズして付き合う予定だったのに、清水君はなぜかあの地味眼鏡女にベッタリ。
どうしてもって言うから当て馬で連れて来たのに、今じゃすっかり主役状態!何を言っても何をやっても彼女ばっかり当てにしてちっとも私には傾かない。寄って来るのは地味女そっくりな野暮そのものな男ばっかり。確かに手際はいいけどさ、これぞ悪女の深情けよ。
そんであまりにも腹が立って、絶対にすごいキノコでも見つけてやるって思ったのが悪いって言うの!?
ああやだやだ、進めどススメ度緑色と茶色ばっかり!
そんで、腹を立てて木を蹴っ飛ばしたのがいけない訳!?
にしても何なのよこのまだ十一時なのに薄暗い森!
「何よ!何よ!そんなにあの陰キャ女が好きなの!この鳥が!」
そのせいでか追っかけて来た鷲に私は走りながら無理やり吠えたけど、暗い顔をした鷲はちっともひるまない。
まったく!あの女はキャンプに強いだけじゃなく、こんな鳥まで使いこなせるなんて!
私はあの女を憎みながら走り続け、いつの間にかやけに開けた場所に来ていた。
そこには山に似つかわしくない都会的な書店があり、まるで私を歓迎しているみたいだった。
それにしても何なのよこの鷲!どうして私に付きまとうのよ!
「いらっしゃいませ」
とか思ってたらちょうど自動ドアが開いた。本当に恐ろしい目をして!
って言うか何なのあんな目をしちゃって!
って言うかもう無理よね、こんな、頑丈そうな、書店の中に……!
ガンガンガンガン!
って何これ!この鳥ガラスを叩き割ろうとしてる!
「て、店主さん!」
「……」
「何とかして下さい!」
「……」
ああもう!役に立たない!ボーっとして突っ立ってばかり!
そう言えば、あの地味メガネ女もいつも勉強してるか本読んでるかボーっとしてるかのどれかしかしない!ムカつく、ムカつく、ムカつく!!
そんな所に並ぶ、青い背表紙の本。
そして鳴り響く耳障りな音と、透明な破片。
「この!この!この!」
やけに分厚くて真っ青な本を投げ付けてやる。売り物だか何だか知らないけど知った事じゃないわ!あいかわらず他に誰もいない店の中で店主はとがめるでも起こるでもなくボーっとしてるだけだし!
私は!目の前の敵を!倒してるだけ!
まあ、そんな訳でざっと二十冊ほどぶつけてやるとこの鷲も参ったみたいでね。呼吸も絶え絶えになってた。
でも腹立たしいことに、目は逆に穏やかになってた。ふざけんじゃないわよ!さんざん悩ませておいて!この私を!無責任よ!
「お客さん!それは!」
それでとどめを刺してやるとばかり私は残る一冊を手に取った。したらいきなり店主があわて出して!
「うるさーーーい!!」
私は最後の一冊を、殺すつもりで投げた。鷲に向かって、投げた。
「キミって奴がそんなに暴力的だったとは、呆れた」
キャンプは、中止になった。
清水君が石を私にぶつけられたせいでお腹を痛め、これ以上の続行は不可能になったから。
清水君はお腹に包帯を巻かれながらこっちを恨めしげににらみ、片方にはあの陰キャ女を侍らせてる。
私がいくら鷲が鷲がと説明しても信じてくれない。
「まさか彼女に石を投げたかったんじゃないよな」
逆にそう言われる始末。間違ってるって言い返せない。
しかし何だったんだろう、あの青い本は。
そう言えば背表紙に、「キャンプガイド」とか書いてあったような気がしたけど……。
とにかく、私はもう、二度と書店なんか行かない!
って言うか行けない、私が治療費を含め大金を支払わなきゃならないから……。
これも全部、この下手にキャンプの才能のある陰キャ女のせいよ、フン……。
KAC20231 本屋 @wizard-T
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