あと
今朝、執念で座りました。
夕方には点滴も抜け、
車椅子に乗れるようなら導尿も抜けます。
脚のポンプも外れるそうです。
心臓と酸素のモニターだけはまだ外れないみたいですが、君に会いに行くのに支障はないだろうと勝手に思っています。
おはよう、君は起きたのかな。
何を食べているのかな。
私はほんの少しだけ、母乳が出ました。
君の酸素マスクが外れて、私ももっと量が出るようになれば、君にご飯をあげられるようです。
おとーにゃんは君にメロメロで、こっちにいる間は毎日君のところへ通うそうです。
さすがは平安貴族。
百夜通いを知っているのでしょうか。
とはいえおとーにゃんとは結婚できないし、おとーにゃんは100日も通わないのですが。
君は100日も病院にいません。
なんにせよ、メロメロなのは生まれる前と変わりませんね。
おとーにゃんはなんと、君を初抱っこしたことを私に黙っていました。
話すのを忘れていたそうです。
お腹を触って、おててを触って、抱っこして、
君が心拍数をあげてもぞもぞして泣いたので「嫌われてる…」とすねています。
と言いながら今日も来る気満々です。
君はほとんどの期間、おとーにゃんを画面越しにしか見てこなかったから、照れているのかもしれないですね。
恋する乙女の心理、と呼んでいます。
もぞもぞじゃなくて、もじもじなのかな。
いいな、私も早く会いたい。
そういえば退院日が決まりました。
君の予定日よりも早いです。
それくらい、君は早く生まれてきました。
それでも私の言った「おとーにゃんより重く生まれておいで」は守ってくれました。
君は素直で賢いですね。
ありがとう。
なんてことを書いた朝から昼になり、
君の酸素マスクが外れたと連絡がありました。
ミルクも飲み始めたと。
NICUのなかで一番元気な赤ちゃんだと聞きました。
もうすぐ一般の新生児室へ移されるだろうとも。
君は何度も奇跡を見せてくれます。
私も負けじと頑張ってみたら、導尿も心臓や酸素モニターも外れました。
点滴も、あと少しで外してもらえるそうです。
MFICUも出ました。
「これなら赤ちゃん(君)と会える」と言ってもらえました。
帝王切開翌日にしてはすごいそうです。
でも君には負けます。
こうやって負かされていくのがとても楽しいです。
あと2時間で、君に会えます。
やっと、ここまで来ました。
涙が止まりません。
君の名前は、「奇跡」にしようか迷いました。
でも君がこれからも起こしてくれるだろう奇跡は、そんな言葉にはおさまらないかな、とも思いました。
君の名前には、やっぱり「無限の可能性」を込めて、はじめの案を採用するつもりです。
今日はおとーにゃんと二人で行きます。
私ひとりで行って独り占めしたい気持ちもあるのですが、やっぱり二人で迎えに行こうと思います。
じゃあ、やっと。
今、会いに行きます。
名のない君へ捧ぐ 紫乃遼 @harukaanas
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます