名のない君へ捧ぐ

あと？日

0時過ぎに書き始める、日記としては違反なことをしています。

昨夜11時9分頃、破水しました。

そのまま準備してタクシーで病院。

今は抗生物質の点滴と導尿を受けながらおとなしくしています。

対する君は、けっこうお元気です。

何より。

破水ってすごい量の水が出るんですね。

シーツも布団もバスタオルもびしょびしょでびっくりです。

下位の破水と一発でわかりました。

タクシーの運転手さんがとても優しくて、病院内まで荷物を運んでからお会計でいいとのことでした。

産科の先生も検診でよく当たった先生が当直で、いつも通り優しかったです。

君の頭の位置を確認してくれましたが、やっぱり頭が下でした。

えらいです。

今日中に陣痛が来そうなので自然分娩か帝王切開にするね、でも様子見かな、と言われて待機中ですが、お腹はまあまあ痛いです。

そういえば警備員さんも優しくて、病院の入口から病棟まで荷物を運んでくれました。

奥さんのときも破水して大変だったから焦る気持ちはわかる、とのことでした。

めっちゃ焦りました。

あんな量の水、出ると思わなかった。

普通に寝転んでただけなのに。

寝ようとしていたのに。

「今さらなんですけど、破水して赤ちゃんは苦しくないんですか？」

と尋ねてみました。

「苦しい子もいるけど、赤ちゃんはおしっこで羊水つくるから、そんなに苦しくないんだよ。大人が思うより、ずっと賢いんだよ。うちの子天才って思っていいんだよ」

だそうです。

君は賢い、と言い続けていましたが、やっぱり君は賢いようです。

君も、ですね。

他の子も同じく賢いとのことなので。

まあそのとおりなわけですが、私は親バカなので「君は賢い」と言います。

看護師さんも優しくて、採血にも点滴にも適しながら左手の動きに害のない血管を探してくれました。

導尿は、いつやってもそれなりに痛いですね。

人生何度目か覚えていませんが、毎回それなりに痛いです。

「陣痛はもっと痛いよ」と言われたのですが、それとこれとは別問題で。

もしかしたらこれから帝王切開になって、もしかしたら明日には君に会えるかもしれません。

ずっと他の花の葉に隠れていた仏壇のチューリップが飛び出してきたと連絡がありました。

胎盤やおへその裏に隠れる君のようだ、と笑っていたチューリップです。

もう出てくるのかもね、と話しています。

君はまだまだお元気で、これを書いている間にもボコスカしていますが、そのまま下へ突き抜ける可能性もあるわけですね。

これだけ優しい人に囲まれての出産なら、きっと君はお腹のなかのまま元気に生まれてくるでしょう。

きっと君は、生まれてから、

肌がひりつく感覚に泣き、

押しつぶされる感覚に泣き、

異物臭のような感覚に泣き、

目を焼かれそうな感覚に泣き、

体に押し入ってくる感覚に泣き、

頭のなかを反響する感覚に泣くのでしょう。

それが君の、初めて味わう、

乾燥で、重力で、においで、まぶしさで、大気圧で、音で、

この世界なのでしょう。

過酷な世界にびっくりして泣くのでしょう。

生まれた瞬間からそばにずっといるからね、と言えないことが残念で、

そうやって泣く君の姿を見られなさそうなのが残念です。

でも、生まれてからは、手術とか隔離とかが終わってからは、そばにいます。

それまでも、それからも、元気でいてください。

もしかしたら、今日か明日には。

君と会えるまで、あと？日。