名のない君へ捧ぐ

あと21日

これを書き始めて11日になるそうです。

まだ11日なのか、と思う理由は、私が常に何かしら書いている人間だからでしょう。

いろんなサイトでいろんなジャンルを書く私を、君はどう思っているのでしょうか。

目を休めろと思っているのでしょうか。

今日は最近どうにもひどかった足の鬱血解消のためにズボンを買いに行きました。

それから畑にも。

君は畑に行くとひなたぼっこでとてもご機嫌なのですが、今日はどうにも寝ているのかなあと思えば、お腹が苦しかったんですね。

いつもは車椅子から見ているだけなのに、今日はちょっとだけ草むしりをしていたから。

地べたに座るのは、確かに久しぶりでした。

狭かったんだね。

車椅子に戻ると元気よくポコポコする君に、なるほどと笑いました。

そういえば昨日、病院で、昔入院していたときに仲良くしてくれた人を見かけました。

かろうじて名前を、通り過ぎてから思い出せました。

君のおかーにゃんは、とても記憶力が良かった人です。

見たものほとんどを映像として覚えていました。

もうそんなことはできません。

記憶力もゆるやかに落ちる脳のなかで、君のことをどれだけ覚えていられるのか、不安です。

だからこうして君が生まれる前ですら記録をつけているのだけれど。

君が生まれるまでは、発病して文字を書けるまで回復してからずっと、分単位で日記をつけていました。

何を言われて、どう思ったのか。

どんなリハビリをして、いつトイレに行ったのか。

おいしくない病院食のメニューすら書いていました。

君のおとーにゃんが婚約してくれたことは、日記にはありません。

まだスマホを持つので精一杯のときでした。

LINEで「動けなくても一生養う」と言ってくれました。

そのあと、スマホも持てなくなりました。

昨日会った人は、私よりも長く同じ病気で、もう両脚が完全に動かない人で、下半身の感覚が一切ない人です。

それでも相変わらず、電動車椅子でぶいぶいしていました。

忘れることが怖いとかではなくて、新しいことを試していく人でした。

マックのグラコロを食べてみたいと言えば、あんなの全部小麦粉だと笑う人でした。

セブンのイタリアンプリン（当時新発売）を食べてみたいと言えば、あれは固いだけでおいしくないと言う人でした。

全部私よりも先に知っていて、つまりは試してみた人でした。

そういうたくましさをもってほしいな、と思います。

間違っても同じ病気にはならなくていいから。

今朝、君は1時間だけ起きてすぐに寝ました。

おとーにゃんは「めずらしい？」と尋ねてきました。

めずらしいです。

君は最低2時間は粘ります。

けれどおとーにゃんの声がした途端に起きるあたりはさすがです。

私もおとーにゃんもそれぞれ出かけるからと電話を切ったら駄々をこねた君も、さすがです。

おとーにゃんは今忙しいから、とか言っているうちに君は生まれてきます。

もう生まれてからいっぱいかまってもらえばいいと思います。

嬉しいお知らせ、おとーにゃんは、君を抱っこする気満々です。

あと君のお風呂はおとーにゃんが入れてくれます。

おかーにゃんは病気のせいでいろいろ問題があるから、という理由もありますが、おとーにゃんは君のためなら何でもする人だから、何がどうなってもこうなった気はしています。

いっぱい愛されに生まれておいで。

じゃあ、また明日。

君と会えるまで、あと21日。