あと29日
君が生まれるまで、あと30日を切りました。
長いと思っていたのに、過ぎてみれば短いものです。
というのは、私が里帰りしているからでしょう。
おとーにゃんには、もう私の料理の味を忘れたと言われてしまいました。
結婚してから一緒に住んでいた期間より、離れて住んでいる期間の方が長くなりました。
今日の君は午前4時59分にお腹を鋭く蹴って起こしてくれました。
おとーにゃんに連絡するには2時間早く、私の用事にも1時間早い時間。
それでも君はとてもお元気で、最近の拳や蹴りには体重が乗ってきた感触がします。
細い手足が鋭くお腹を裂くというよりも、体重を乗せたパンチと足裏の形がわかるキックの鈍い痛みがします。
元気なことはとても素晴らしいので、これからも遠慮なく蹴ってくれればいいなと思います。
体表からは触りにくくなった肋骨の裏を、君はぐりぐりと蹴ります。
子宮の膜も横隔膜もあるはずなのに、これほど直接触っているような感触がするのはとても不思議です。
ただ胸をえぐられる感じがするので、毎回うめいています。
君にも聞こえていそうですね。
やめろという意味ではないので、やっぱりお元気に気ままに暴れてくれれば嬉しいです。
とはいえ、昨日の夜のようなおへその裏を蹴るのはちょっと心配です。
蹴られすぎておへその周りの皮が盛り上がっていましたが、そこにはへその緒があります。
君にとって大事な管なので、傷つけないように気をつけてほしいものです。
実は、昨日、今日と、君にとってそう遠くない人が立て続けに亡くなっています。
時間が経つのは早いなあと感じる日々です。
世代が変わって、君も生まれて、すぐに大きくなるのかな。
「いっぱい泣いて、いっぱい笑って、大きくなれ」
私はそう、自分の小説で親としての心情を書きました。
君にもそうやって、たくさん泣いて笑って、恋をして、大きくなってほしいと願っています。
人を愛すること、愛されることを知ってほしいなと思っています。
愛されることを教えるのは、まずは私たち親の責任かなと思っているのですが、感受性の問題もあるから難しいですね。
私の愛情が君への押しつけにならないように気をつけたいと思います。
君のおとーにゃんは、今日は君の元気溌剌エピソードを聞いて穏やかな顔で出勤していきました。
夜の電話を楽しみにしているそうなので、私は寝ているだろうから起こしてほしいな。
今からあてにしています(笑)
それはそれで重いのか。
君のおとーにゃんは毎日ぴえんしていますが、ついに昨日は私の家族にも泣いているのを聞かれてしまいました。
「おぎゃー」
という声に、本当に子どもがいるのかと思ったそうです。
「夜泣きばばあって居たよね?」
「夜泣きじじいじゃない?」
「違う、子泣きじじいや!」
という昨日の会話、君も聞いていたらおもしろいな。
3人でたくさん泣きましょう。
そして、たくさん笑いましょう。
君を連れていく旅行先の候補が、もう山ほどあります。
未だにおとーにゃんから付けてもらったニックネームしかない君ですが、
そんな君のニックネームを付けて育てているプランターの春菊は5日目にしてもう芽をにょきにょきと伸ばしています。
彼らにはこれから間引きがありますが、間引かれる前提のない君はこれからも私の栄養分を吸い取って大きくなってほしいです。
お腹が空いても君がいるから食べなくてもいいや。
君がいるからお腹が空いた気にならないや。
そんな日は、もうあまり続かないようですね。
それがやっぱり、寂しいかな。
私が寂しくないくらい、暴れてください。
って言わなくても、君はこれを書いている最中ですら大変お元気です。
それが嬉しい。
じゃあ、また明日。
君と会えるまで、あと29日。
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