そこにはある
瀬川
そこにはある
祖父がやっていた小さな書店を継いでから、一ヶ月。あまり人が来るとは言えないが、経営状況は赤字にはなっていない。
そして最近気になっているのは、あるお客さんだ。
近くにある高校の生徒で、学校終わりに毎日来ている。見た目で判断するのは良くないかもしれないけど、本を読みそうなタイプではないのだ。
スポーツマンタイプというか、サッカー部かバスケ部に所属していそうな、爽やかなイケメン。
でも毎日、一時間ほど立ち読みをしたり、本について質問してきたりする。
この店では別に立ち読みを禁止していない。それに向こうは学生だから、買えと強要するつもりはなかった。
ただ、もっと他に遊ぶところや楽しい場所はありそうなのに、どうしてわざわざここに来るのかが不思議だった。
「どうして、うちの店に来てくれるのかな?」
あまりにも気になって、思わず質問した。
「あ、えっと。……迷惑、でしたか?」
購入していないから怒られるとでも思ったのか。今にも謝りそうなので、慌てて弁解する。
「迷惑だなんて、とんでもない。来てくれるだけで嬉しいよ。ただ、今は楽しいところがたくさんあるのに、どうしてうちに来るのかなって不思議で」
頬をかいて言えば、彼はほっとしたように胸を撫で下ろす。
「良かったです。もう来ないでくれと言われるかと思って心配だったんです」
そして続けた。
「実は、ここに欲しいものがありまして」
「欲しいもの?」
「はい。だから、ここに来ているんです」
そういうことか。なんとなく察してしまった。たぶん目的は本では無い。
きっと、この店に客と来ている誰かに恋をしているのだ。
俺もそんな経験があるから、すぐに分かった。同じ学校の子だろうか、それともたまに来る綺麗な人だろうか。
「そっか。応援しているよ。もし何かあったら、いつでも相談してくれっていいからね」
「はい……頑張ります」
俺の予想は当たっていたみたいで、頬を染めて頷くから、なんだか青春を思い出した。
「……これからも、よろしくお願いしますね」
「うん、よろしく」
顔を赤くさせながら、どこか微妙な顔をした彼に俺は力強く頷いた。
そこにはある 瀬川 @segawa08
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