3階病棟への移動

ある日、婦長さんが尋ねてきた。

「今日来たのはね、今後のリハビリについてなんだけど、3階に移らない?本来ここは救急病院だから治療の必要がなくなった人は出てもらうんだけど、リハビリだけは3階に移ることで退院までいることが出来るの。もちろん担当者も変わらないわ。どうかしら?」と婦長は私に聞いた。私の父母もリハビリは他の病院に転院となっていたので、婦長の申し出はとても嬉しかった。娘が来るのもここが近いし、何より担当が変わらないこと。それが一番。

私は「退院までここにいたいので3階に移ります」と答えた。婦長は「いまは有料のところしか開いてないのよね、その間は室料払ってもらわないといけない。無料のところが開いたら優先的に移れるようにするからそれでいいかしら」と私に聞いた。

私は「お金かかっても構いませんからお願いします」と答えた。

「そう、じゃそういうことで手続するね。用意して担当のものが後で来るから」と婦長は言って部屋を出て行った。


しばらくして担当者がやって来た。「空き次第3階に移ります。ここにサインと印鑑を」と言われたのでサインはしたが、「えっと印鑑は?」私は鍵付きの引き出しを開けて、中を探したら印鑑のついたボールペンを見つけた。「よかった、ありました」私はそう言って、印鑑押した。

「書類はこれで大丈夫です。移れるようになったら連絡しますね」と担当者は言い病室を出て行った。


娘にメールすると。「よかったね、移ったらメールしてね、それとTV見るのよ。入院して3週間余り。新聞も読んでないし情報が足りてないから」と返事が来た。「解ったよ。そうする」と私はメールを返した。


有料の病棟は無料よりも広くソファーがおいてあって、ベッドも大きい。TVは見放題。無料はTVを見るにはテレビカードが必要だし、椅子と言ってもパイプ椅子しか無い。このうるさい4階から離れられるということもとても嬉しかった。


2日後ぐらいだったろうか、リハビリ室から帰ってくると看護師に「3階に荷物を移しましたから、貴重品を持って移動してください」と声を掛けられた。私は石山さんと病室に行き鍵を開けて中のものを取り出した。それは石山さんが持ってくれた。

忘れ物がないか確認して3階に降りた。


病室はよく片付けられていた。鍵付きの引き出しに石山さんが荷物を入れてくれた。

「明日からここに迎えに来るね。じゃまた明日」と言って石山さんは病室を出て行った。


一人になると私は伝い歩きで室内を探索した。必要なものを手の届くところに置いておきたかったから。

歩行器を使わなくても室内ぐらいは何かにつかまれば歩けるようになっていたんです。


それが済むとベッドに上がりさっそくTVをつけた。3階は静か、人が行きかう音がするがそれは、リハビリの自主練の人たちのようだ。ここなら音に悩ませられない。


翌日には自分でトイレに行く許可が出て、ポータブルトイレが片付けられた。

これで、コールするのは歩行器を借りるときだけになった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る