本屋関(ほんやのせき)【KAC2023】-01
久浩香
本屋関(ほんやのせき)
平成という元号が、ようやく世間に馴染んできた頃の事だ。
市内には、東と西の二つの高校があり、そのおよそ中間地点にアーケード商店街があった。
西高に通う
学校帰りに寄り道をする二つの高校の生徒は、大抵、アーケード商店街の入口近くにある『蝉丸書店』に立ち寄るので、店の前には、通学用ステッカーの貼られた自転車が林立し、店先の雑誌コーナーで立ち読みする背中は、その8割方が制服を着ていた。
最も、皆が皆、誰かと約束をしているわけではない。
文庫コーナーを目指し、店舗内に入ったばかりの泉を呼び止めた東高の
「ね。今から、カラオケ行かない?」
早苗が親指で差した背中の後ろには、レジを待っている、やはりクラスメイトだった
「あ~。ごめん。今日はちょっと…。ってゆうか、そっち、授業終わるの早くない?」
「え? そーでもないよ。あ~。でも、どうだろ。文化祭で委員会がどーたらって言ってたよーな気がする…かな」
早苗はそう答えながら、目の焦点を泉の背後の入口の自動ドアに移し、知った顔が来ないかを探していた。
「お待たせ~」
会計を済ませ、にこにこしながら近づいて来た由紀に、
「泉、来れないって」
と、早苗はさも残念そうに話し、
「えーっ。そうなんだ~。ざんね~ん」
と、由紀も、ほんの少し眉尻を下げた。
「ごめんね。また、今度」
「うん、また~」
「じゃあねー」
その間に、泉の知らない子の方は、確保に成功しており、カラオケに行くメンバーは5人になって店を出ていった。
(そっか。文化祭…か)
泉は、ニヤけそうな顔を誤魔化すのに、お笑いネタの本を手に取った。
本屋関(ほんやのせき)【KAC2023】-01 久浩香 @id1621238
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
肌感と思考の備忘録/久浩香
★0 エッセイ・ノンフィクション 連載中 24話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます