第4話

 モノクルの少女は自宅の客間で目を覚ましたのではない。目を覚まさざるを得なかったのだ。具体的にはモノクルに搭載されたスピーカーの呼び出し音に叩き起こされたのだ。

 通信の相手はヘッドホンの少女。文章送信で済ませれば良いものを何故通話、と思いながらモノクルの少女は通話を許可した。

<緊急事態。昨日のファミレスに来い。>

 どんなアプリケーションを使っているのかは知らないが古き良きガチャンという電話を切る音と共にヘッドホンの少女からの通話は終了した。

 昨日、とは。

 モノクルレンズの端に表示された時刻は零時を過ぎていた。

 日めくり済み。深夜の呼び出し。正直行きたくない。だが、行かなかったら何をされるかわかったものではない。

 やむを得ずモノクルの少女は布団から起き上がり、身支度を済ませて家を出た。


 隣町のファミリーレストランで待っていたのはヘッドホンの少女の他に、見知らぬベレー帽の少女とヘルメットの少女だった。

 見知らぬ少女二人と卓を挟んで向かい合うようにモノクルの少女は席に着いた。ヘッドホンの少女の隣に座ったが、単に他に座る場所が無かっただけで選んだ訳ではない。断じて。

 ベレー帽の少女は口を開いた。

「うちの子達殺すのもうやめてくれないかな。」

 その言葉を聞いて即座にモノクルの少女はスマートレンズを視線操作して生体反応を確認する。相手がヒトグマであっても人間に擬態している状態で反応が出る訳ではないという事は知っているが、眼前の人物二人が敵であるかも知れない状況で何もしない事を彼女の心は許可しなかった。

 返事をしたのはヘッドホンの少女だ。

<嫌だね。>

「何故だ。」

 ベレー帽の少女の疑問に至極当然だと言わんばかりに堂々とヘッドホンの少女は宣言した。

<人食いの怪物の存在を許容する利点が全く存在しない。>

 その理屈は極めて単純明快でそして、正しかった。

 だがベレー帽の少女は言葉を続ける。

「人食いの話は後で議論するので一旦忘れてくれ。」

<いや駄目だろ。>

 ヘッドホンの少女の指摘を無視してベレー帽の少女は話し続ける。

「私達が元々は熊だという事は知っているな。」

<知らないけど。>

「それでだ。」

<聞けよ。>

 ベレー帽の少女は黙らない。

「熊の思考は人間のそれより遥かに劣っている。理性的ではないし本能に従属している。言葉なんて一切喋れない。一番ひどいのは人権が無い事だな。教育の機会を得られず、はっきり言って人間に劣る。不平等だ。」

<そりゃ熊は人間じゃなくて獣だからな。>

「だが人間を食べた事で人間に擬態する能力を得た。人間と同等の思考を手に入れ人間と会話する事が可能になった。擬似的な人間。人権を与えてもいいだろう。」

「人殺しに与える人権は」

「ないかな。では何故人殺しの中に死刑になる奴とならない奴が居る。」

 ベレー帽の少女の言葉にヘッドホンの少女が黙る。返答を待つ事無くベレー帽の少女は続ける。

「もし君達が私を断罪したいのだとしても既に人間の姿と知能と人格を手に入れているのだから人間の法律で裁くべきだろう。それどころか人間を食い殺した時は人間の意識を持たない本能に従属した思考を持っていたのだから人間の基準で言う所の精神障害者に相当するはず。裁く事すら適切ではない。」

<駄目だ。人食いの怪物は殺さなければいけない。>

「論理的ではないな。」

 ヘッドホンの少女の返答にベレー帽の少女は言葉で畳み掛ける。

「こう考えて欲しい。君が生まれてからずっと夢遊病のように意識が混濁していて目が覚めて冷静な思考を取り戻したら足元には自分が食い殺したと思わしき人間の死体がある。そんな状況で一体誰が君を罪人扱いするというのだ。」

 ベレー帽の少女の発言にモノクルの少女は内心で頷いてしまった。だって自分も人間を殺していないという事を除けば似たような状態だったから。誰もがある時期を境に自分自身を発見する。物心つく前の記憶を覚えている人なんて少数派だろう。その記憶が無い時期に誰かを既に殺してしまって、気付いたら報復で殺されていたとか刑務所に収監されていたとか、どう考えてもそれは責任の所在が不明であり下される罰が釣り合っていない。動物の知能を示す時に『人間の何歳児に相当』等の書き方を見た人達も多いだろう。人間と比較するなら野生動物はどいつもこいつも幼い子供に過ぎない。もし野生動物を人間扱いし野生動物による害を犯罪として罰するなら更生施設送りにすべきであり刑務所や死刑等は妥当ではない。それを知っていたから自分は一線を越えたヒトグマだけを狙っていたのか、とモノクルの少女は自問する。 

<駄目だ。人食いの怪物は殺す。>

「話にならない。もし私達が人間を殺して擬態した後も人間を殺し続けていればそれは殺人として罰せられるべきだ。私もそういう規則を破る個体を君達が殺す事には文句を言わない。だが昨日、君は擬態する為に殺した最初の人間以外の人間に手を出していない個体を殺した。熊だった頃にした殺人にまで過剰な罰を与えるのは正しくない。」

<殺す。>

 殺意を完全に剥き出しにしたヘッドホンの少女に向けベレー帽の少女はため息をついた。

「仕方がないな。じゃあ相手をしてあげるけど、ここじゃあ他の人達に迷惑だから移動しよう。その前に。」

 猫の顔を表示した配膳ロボットが卓の隣で停止した。ベレー帽の少女とヘッドホンの少女はそれぞれ無言でロボットの棚から二人分の料理を取り出して卓上に合計四人分を並べた。

 三人は両手を合わせて頂きますと述べた後、食事を開始した。モノクルの少女は目を泳がせて混乱していた。

 普通に食べるんだ。食べちゃうんだ。


 食事が終わった後、四人はファミリーレストランを出て山中の森にまでやってきた。

 その途中『ここら辺で良いかな。』『いやまだちょっと遠くまで行こう。』『えー、でもあんまり歩きたくないし。』『でも他の人達に見られると恥ずかしいし。』

 などとベレー帽の少女とヘッドホンの少女が言い合っていた。これから殺し合いを始めるというのに。

「さて。」

 市街地からの視線を完全に遮断出来る木々だらけの森の中の比較的広い空間に到達した時点でベレー帽の少女は振り返った。

「死ぬ前に言い残す事はあるかな。」

<死ね。>

 辛辣な返答をヘッドホンの少女が返した後、両者の肉体の体積が膨張し、全身が毛に覆われ、熊を思わせる怪物『ヒトグマ』へと変じ、二人は最高速度で激突した。

 まるで金属同士が衝突したからのようなやかましい高音が鳴り響く。

 人智を超越した凄まじい激闘が繰り広げられている横でヘルメットの少女がモノクルの少女をじっと見つめていた。

 なんか見られてる。

 敵対者になるか否かを見定めているのだろうが――。

<援護しろ。今更中立は許されない。君は人食いの怪物と人間どっちの味方だ。>

 スマートレンズのスピーカーに飛び込んできたヘッドホンの少女の要請に脚が動きそうになったが、動かなかった。

 怪物と人間。どっちに味方するか。

 その言葉の違和感は重い鉛となってモノクルの少女の全身にのしかかった。ベレー帽の少女の発言が正しいならば自分は彼女たちを罰する権限を有しない。しかし今後彼女たちが人間を食い殺さないという保証は一体どこに無い。ヘッドホンの少女はヒトグマを『人を食った怪物』ではなく『人食いの怪物』と呼称し、まるで人食いが行為だけにとどまらず永続する習性であるかのように強調した。ヘッドホンの少女の方がヒトグマと戦っている経験が長いならばヘッドホンの少女に従うべきではないのか。

 ヘルメットの少女がモノクルの少女に背を向けた。彼女もヒトグマならば今ここで不意打ちすればベレー帽の少女への加勢を防ぐ事が出来るだろう。そう思っている内にヘルメットの少女の身体も膨張を始めヒトグマに変じた。ほらやっぱりヒトグマだった。攻撃するなら今しかないぞ。

 だが動かない。動けない。

 ヘルメットの少女は激突する二体のヒトグマの間に入って自身が傷つくのも構わずに参戦した。

 モノクルの少女は何も出来ずに呆然と立ち尽くした。


 気がついたら人間が足元で死んでいた。自分の口には返り血らしき物が付着しており、あるはずの体毛が無く、身体が小さくなっている気がした。

 それがベレー帽の少女が最初に手に入れた明瞭な記憶だ。それ以前の記憶はぼやけてはいるが、どうやら自分は熊という種族だったらしい事をその後に脳内に浸透した人間の記憶によって理解した。

 今までと異なり明確な自意識と思考を獲得したベレー帽の少女はどうやら自分と同じ様な状況になって熊から人っぽい生物になっている者達が居るらしい事を知った。彼女達を集め組織化する必要があった。人間を殺すのは現在の人間社会において禁忌とされており、自分達が人っぽい生き物になる為には必ず擬態対象となる人間を食い殺す必要がある。つまり自分達は存在自体が禁忌として扱われる可能性が高い。

 その事を知ったベレー帽の少女は自分の同類と思わしき少女達を集めて可能な限りの考えられるだけの危険の説明をして人間達に見つからないように行動するよう求めた。

 だがそれでも人間を食い殺す同類達が現れた。元が熊である為、人間に擬態出来るようになった後も人間の味が忘れられないのだろう。

 この時不良個体である同類達を殺しておくべきだった。しかし同類愛に流された結果がこれだ。

 現在ベレー帽の少女はヒトグマの姿に変貌し、同じくヒトグマに変身したヘッドホンの少女と激闘を繰り広げている。ベレー帽の少女の指先の一つ一つに穴が空いており、そこから生体弾丸が機関銃のように無数に吐き出される。

 一方ヘッドホンの少女は遥か上方の木々の幹や枝を蹴って次から次へと高速で移動している。そこを長く発達し先端に大きく開いた砲口を有する右腕でヘルメットの少女のヒトグマが狙い撃とうとするが、あまりにもヘッドホンの少女の移動速度が早過ぎて放たれた生体砲弾はかすりもしない。

 圧倒的な強敵。

 ベレー帽の少女はそう確信せざるを得なかった。

 現状、ヘッドホンの少女のヒトグマはこちら側に何ら遠距離攻撃をしかけてきていない。接近させなければ、と思うがいつまでこうしてられるのか。

 そう思っていると突如、ヘッドホンの少女のヒトグマが一番高い木の一番高い枝を蹴って急速に降下してきた。

 当然この好機を逃す事無くベレー帽の少女とヘルメットの少女はまっすぐに降下してくる標的に集中砲火を浴びせるが、圧倒的な強度を有するヘッドホンの少女の装甲はびくともせず、ベレー帽の少女は飛び退いた。だが一歩遅く、着地と同時にヘッドホンの少女が振り下ろした弯刀と化した左下腕の先端がベレー帽の少女の右腕を撫でた。それだけだというのに無数の熊の牙が生え揃った弯刀部はベレー帽の少女の右腕をずたずたに引き裂いた。

 思わず左手で右腕を抑えたくなるが、我慢した。両腕を塞ぐのは自殺行為だ。更に後退するベレー帽の少女の懐にヘッドホンの少女は踏み込んだ。既にもう一回振り下ろす為に弯刀は振り上げられている。

 やられる。

 ベレー帽の少女がそう思った直後、ヘッドホンの少女は姿勢を大きく崩した。ヘルメットの少女の生体砲弾がヘッドホンの少女の背中に命中したのだ。背面の装甲は大した事が無いのか、苦痛に苦しみ唸り声をあげるヘッドホンの少女。

 今こそ。

 そう思ってベレー帽の少女が左指先の銃口を向けるがヘッドホンの少女の方が早かった。

 今までの速度を圧倒的に上回る速さでヘルメットの少女との距離を詰めたヘッドホンの少女はその左腕の弯刀をヘルメットの少女の胸部に突き刺した。

 貫通した。熊の牙が生え揃っている為突き刺した時の抵抗は凄まじいはずなのに、あっさりヘルメットの少女のヒトグマの胸部を根元まで貫通した。まるで降り積もったばかりの新雪の中に傘の先端を突き刺すかのように容易く貫通した。

 ヘッドホンの少女に向けて構えられていたはずのヘルメットの少女の両腕から全ての力が抜け落ちて垂れ下がる。ヘッドホンの少女は左腕の弯刀をヘルメットの少女の胸部から引き抜き、そしてヘルメットの少女の身体を蹴り倒した。

 地面に仰向けに倒れたヘルメット少女のヒトグマの身体は人間の少女のそれへと戻った。

 死んだ。

 さっきまで生きていた仲間が。死んだ。

 ベレー帽の少女がヘルメットの少女と出会ったのはベレー帽の少女が熊からヒトグマになってから数日経過してからだった。ヒトグマになってすぐの頃は自分が食い殺した本物のベレー帽の少女の記憶を用いて人間のふりをして過ごしていたが、その内自分のしでかした事の重大さに気付いて不安になった。人間社会では人間を殺す事は最大の罪とされている。ましてや食い殺したという事が知られれば極刑は免れない。

 怖かった。殺されたくなかった。

 人間に擬態する前は何も考えずに本能の命じるままに過ごしていた。腹が減ったら獲物を狙い、眠くなったら寝る。あの時食い殺した人間も、他の獲物達と変わらないはずだった。

 なのに、怖い。自分はとてつもなく酷い事をしでかしてしまったのだという罪悪感と恐怖がベレー帽の少女の脳内を支配した。

 死にたくない。殺されたくない。

 自分が死ぬ。そんな事は熊だった頃には考えもしなかった。考えたとしてもここまでの恐怖に怯える事は無かっただろう。

 まるで生まれて初めて死という物を考えて怖くなった幼子のようにベレー帽の少女は泣き叫び、歩き続けた。

 いつの間にか夜中になり自分がどこを歩いているのかもわからず、その恐怖でまた泣き始めた。

 そこへ現れたのがヘルメットの少女だった。ヘルメットの少女はベレー帽の少女に二つに割った板チョコの片方を差し出した。

 生まれて初めて甘い物を食べた。熊のままだったら決して食えなかっただろう。

 空腹を軽減して落ち着いたベレー帽の少女はそれから色々な事をヘルメットの少女に話した。自分が熊であった事も人間を食い殺して人間に擬態した事も、そして怖くなって泣き叫んでいた事も。何から何まで全部。黙っているのが苦しかった。誰かに理解して欲しかった。

 ヘルメットの少女は黙ってそれを全て受け入れ、そして自分もまた熊だった事を打ち明けた。

 二人は親友になった。

 そのはずだったのに。

 今地面に倒れているのは親友だった物だ。物体だ。形ある死だ。

 ヘルメットの少女はベレー帽の少女が他のヒトグマ達をまとめて統制するのがヒトグマの身を守る事につながると主張した時に具体案を出して計画を洗練した。言う事を聞かない仲間を殺すべきだったと胸の内を吐露した時は何も言わずに抱きしめてくれた。なのに。

 死んだ。死んでしまった。断じて――。

「死んで良い奴ではなかった。」「

 小さく呟いたベレー帽の少女は両腕をヘッドホンの少女に向け、指先から無数の生体弾を叩き込んだ。


 雨が、降り始めた。

 冬が終わり初めて気温が上がり、雪になるはずだった水蒸気達は大地を激しく叩く水滴となって落下し始めた。

 まずいな、とヘッドホンの少女は思った。

 敵であるベレー帽の少女は明らかに無理をしている。いくら身体の一部とはいえ、その構造はエネルギーを放出する事で質量弾を打ち出しているのだ。冷却は必要であり、そして雨がベレー帽の少女の手を自壊させる熱を奪っていく。

 更に問題なのは先程のヘルメットの少女が放った砲弾。装甲が薄い背面を打ち砕いた。神経に異常がある事を痛覚が知らせている。

 長くはもたない。

 現在二人は無人の線路の上に居た。

 攻撃力も防御力も速度も全てがヘッドホンの少女が上回っていたはずだった。故に自ら戦う場所を変える必要は無かった。

 だから、場所を変えさせたのはベレー帽の少女だった。

 装甲に覆われていない顔面。そこに生体弾を集中的に連射しヘッドホンの少女の両腕に反射的に防御させて目眩ましをした後、一直線に全力で森を駆け抜けた。気付いた時にはかなり遠くに行ったベレー帽の少女を追いかけヘッドホンの少女は見晴らしの良い線路の上に誘い出された。

 正しい判断だ、とヘッドホンの少女は思った。立体的な戦いが出来ないように木々が生えていない開放空間を選んだのは褒めてやる。だが、元々の身体能力に大きな差が有る以上、既に決まりきった勝敗は覆らない。

 ヘッドホンの少女は一直線に走る。そしてベレー帽の少女の生体弾が彼女の足を襲う。牽制、ではない。狙いが正確。足首。装甲の隙間の関節を狙っているのか。

 回避の為にヘッドホンの少女が横へと飛び退いた直後、ベレー帽の少女はヘッドホンの少女に向けて走り出した。利点である遠距離攻撃を捨てただと。反撃を、いや間に合わない。

 何故森からの逃走を許した、とヘッドホンの少女は自問する。一体いつから速度に大きな差があると誤認していた。ベレー帽の少女は遠距離攻撃ばかりをしていて元々移動は殆どしていなかった。故に誤認した。

 発揮された脚力はヘッドホンの少女のそれには及ばないものの決して遅いものではなかった。その予想外の力に完全に不意を突かれた為ヘッドホンの少女の反応が遅れた。

 それ故に左腕の弯刀に組み付かれた。左の脇に抱え込まれ凄まじい力でおさえこまれる。剥き出しの牙が身体に食い込んでいるはずだが、損傷を覚悟しているのだろう。

 武器が左腕だけだとでも思ったか。

 ヘッドホンの少女は右腕を振り上げた。だが、激痛が彼女を襲う。背面。ヘルメットの少女が砲弾を撃ち込んだ箇所。そこに、ベレー帽の少女が右手を突っ込んだのだ。

 まずい。

 そう思った直後、ベレー帽の少女の生体弾の接射が始まった。


 許せない。ベレー帽の少女がそういう気持ちになったのは生まれて初めてだった。熊だった頃は本能で生きていた。人間に擬態してからは自分の感情をヘルメットの少女と共に整理して合理的に静かに生きていた。

 今、完全に個人の意志で、殺意をむき出しにしていた。

 殺す。殺しただろ。あの少女を。ベレー帽をかぶった幼い少女を。自分が殺すのは良くて自分が殺されるのは駄目なのか。違う。自分が殺されるのは良い。だが親友が殺されるのは許さない。ベレー帽の少女はお前ではない。お前は彼女に擬態した。彼女を殺したのだ。ベレー帽の少女にも親友は居たのではないのか。居なければ殺して良かったのか。そうだ。私が悪いさ。だがそんな理屈はどうでもいい。

 何から何まで理屈だった。自分達に罪は無い。殺した時に判断力は無かった。人間に狙われない為に人間を殺してはいけない。そんな言葉で飾ってもその根底にはあるのは常に譲れない感情だった。

 死にたくない。殺されたくない。

 そして今は。

「殺してやる。」

 ヘッドホンの少女のヒトグマの体内に全力で叩き込まれた生体弾の群れは筋繊維も神経も内蔵もずたずたに引き裂き、ヘッドホンの少女に吐血させた。

 人間のものとも獣のものとも思えない唸り声をヘッドホンの少女は鮮血とともに吐き出し、そして右腕を振り下ろした。

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