第49話 行幸
バナージュの別邸は相変わらずの人山で賑わっていた。
都落ちからの帰還後、すでに三日はたとうというのに、誰も面会ができていないという有様であった。
日が昇る頃にどこからともなく現れて、面会を申し込んでは衛兵に追い返され、何度も何度も懇願するも、結局相手にされることはなく、日が沈むとスゴスゴと帰っていく。
これが三日も続いていた。
唯一衛兵の壁を越えて、中に入ったのはパシー商会のソリドゥスであったため、パシー家との繋がり深い者の中には、そちらに繋ぎを頼み込む者までいた。
だが、断られた。
「今回の件は妹に一任している。もし頼み事があるならば、そちらに申し出てくれ」
これがレウスの回答で、人々を失望させた。
なにしろ、当のソリドゥスは別邸に入ったまま一度も出ることはなく、バナージュ同様、完全に籠城を決め込んでいる有様であった。
そして結局、別邸前での待機となるのであった。
バナージュ本人か、あるいは取次役と目されるソリドゥスに会わなくては、どうにも話が進まない状況であり、もはや我慢比べの様相を呈してきた。
そんな中に、特大の爆弾が投げつけられた。
それは、別邸にまたしても近衛隊に護衛された馬車がやって来たのだ。
今度は誰がやって来たのだろうかと、集まる人々の注目を集めたが、その馬車を見るなり誰かが叫んだ。
「あれは御料馬車だぞ! ということは、陛下におわすぞ!」
珠玉に彩られた馬車に、それを取り囲む正装に身を包んだ近衛の騎兵。国王の座乗する馬車であることは疑いようもなく、誰も彼もが驚いた。
滅多にお目にかかれない代物であるので、感嘆の声を上げながら眺める者や、あるいは慌てて拝礼して敬意を表する者など、それは様々であった。
だが、同時にそれは譲位が現実味を帯びてきた、ということを意味していた。
「いくら息子の邸宅とは言え、国王陛下が直々に訪れるなど、ただ事ではないぞ」
「だな。やはり、バナージュ殿下が次期国王に決まりと言う事か」
「ええい。まだ顔繫ぎができておらんのに、情勢の変化が速すぎるぞ!」
人々の焦りはさらに高まっていったが、もはやどうにも打つ手はなかった。国王が屋敷に入っていったということは、いよいよ久しぶりの親子対面の場と言う事であり、その場で今後のことが話し合われるということを意味していた。
そこへ突入することなど出来はしないし、もう見守る事しかできなかった。
だが、それではダメだと考える一部は、もう一度とパシー家の邸宅に走り、顔繫ぎを頼もうと走り去って行った。
ちなみに、“国王呼びつけ”という前代未聞の行動は、ソリドゥスによって立案された。
「いや、詫びを入れるんなら、自分から相手先に訪問するのが筋じゃないの?」
これがソリドゥスの言い分である。
間違ってはいないのだが、相手は国王であるし、それでいいのかと周囲が大いに焦ることとなった。
それを近衛隊を挟んで王宮に伝えたところ、今日の訪問が実現したのだ。
門前の騒動を見るにこれまた大成功と、窓から騒ぎを見ていたソリドゥスはほくそ笑んだ。
そして、玄関前に到着した馬車から、国王レイモンが姿を見せた。体調はかなり回復し、杖を突きながらであれば歩ける程度には回復していた。
(陛下は王都の騒動を早く鎮めたいと躍起になっている。だからこそ、早めに王位継承者を決めなくてはならない。それを考えたら、息子の屋敷に足を運ぶくらい造作もないでしょうよ。体面よりも、実利を選ぶような御方だからね~)
バナージュの権威付けとしては申し分ない。国王を招き入れたと言う事は、和解の意思表示をお互いに示したことであり、両者の話し合いも、周囲の認知も早く進むと言うものだ。
(それに、バナージュが王都に帰還したあたりから、急に陛下の病状が一気に回復したとも聞いた。これも“幸運の牝馬”のおかげかな~?)
エリザの持つ“
(そう、すべてはバナージュの周囲で渦巻く、運気の流れがもたらすもの。乗るっきゃないでしょ、この流れに!)
すでに国王を歓迎する準備は整っている。あとは二人の話次第。
高度の柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対応して、貰えるものを貰ってゴールインだ。
王位継承問題、最後の総仕上げだとソリドゥスは最終幕の台本を開いた。
~ 第五十話に続く ~
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