第7話 離婚工作(前編)
部屋を出たソリドゥスは、廊下で待たせていたアルジャンとデナリにバッと一枚の紙切れを見せ付けた。レウスから受け取った小切手だ。
「ほれ! しっかり融資、受けてきたわよ」
「お嬢様、今すぐこの部屋に入って、旦那様に『正気ですか?』と尋ねてよろしいでしょうか?」
アルジャンとしては当然の反応であった。何しろ、小切手に書かれている額面は金貨で千枚。少女にお遊びで渡すにしては、あまりに大きな金額であるからだ。
「どういう意味かしら、アルジャン? 私への信用が数字として出ているだけよ。あ、それと受けてくれたのはお兄様ね」
「では、訂正します。若旦那様に『正気ですか?』と尋ねてもよろしいでしょうか?」
「聞かなくていいし、いい加減あたしを信用しろっての」
一切ぶれない従者の態度に、ソリドゥスは辟易しながらも、時間が惜しいからと廊下を歩き始めた。
可愛らしく突いてくるデナリの視線は小切手に注がれた。
「でも、ソル姉様、その金貨でどうなさるおつもりですか? バナージュ殿下とエリザさんの間を取り持つってことは、盛大に結婚式でもされますか?」
実際、派閥を立ち上げて、それを運営維持したり、あるいは貴族等を勧誘して引き込むなどするには、どう足掻こうとも金が要る。その金額としては、金貨千枚程度など、ささやかにすぎるのだ。
しかも、ソリドゥスにはさしたる収入源がない。【なんでも鑑定眼】で稼げなくもないが、それだけではあまりに少なすぎるのだ。
デナリの言う通り、ささやかな結婚式でも執り行うのがせいぜいだ。
「まあ、結婚式自体は質素なものになるでしょうよ。今の問題はどうやって、ザックとエリザの間を引き裂くのか、ここにかかっているわ」
「やれやれ、
アルジャンはやれやれと言わんばかりに首を左右に振り、ため息を吐いた。なにしろ、これからそれら一連の騒動に、否応なく関わらされることが目に見えているからだ。
「いいの! そもそも、
「金銭と鉛玉、ですかな?」
「前者はだいたい合ってるけど、後者は違うからね!」
鉛玉、すなわち銃器で相手に脅しをかけるなど、商人としてあるまじき行為だとソリドゥスは考えていた。無論、奇麗事だけでは済まされない案件があることも、商家の娘として学んではいるが、それでもそうした行為は邪道だと考えている。
あくまでスマートに、流血を伴わない金銭でのみの解決を図るつもりでいた。
「さあ、まずは役所に行くわよ! ザックとエリザの戸籍について調べてみたいことがあるから!」
こうしてソリドゥスは釈然としない二人を引き連れ、役所に向かった。
~ 第八話に続く ~
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