第11話 いない! どこにもいないぞ!
さあ、困りましたよ。
なんとですね、どこにもいないんです。
航空写真を見て、この辺りならば居そうだぞ。そう目星をつけて行くわけです。
しかし居ない。
そう、カワハギがどこにも居ないのです。
え? カワハギですよ。あのお魚の。
カワハギを狙って釣りをしても、実際に釣れるのはベラばかり。
ベラだって、食べればそれなりに美味しい魚ではあるけれど、カワハギと比べるとその差は大きすぎる。
そして、居ないばかりではなく、ないのです。
カワハギ用の仕掛けが島内の釣具屋に売っていない。店員さんに聞いてみました。カワハギについて。釣れないのか、仕掛けは売っていないのか。
「たまに聞かれるけどね、島の人は誰もやってないよね。仕掛けも扱ってないよ」
ですって。
知っている人は知っていると思う。カワハギって、鬼ウマなんですよ。
でね、同じ長崎でも、私の実家近くでは堤防で手軽に釣れる。きっとこの島も釣れるだろうと思っていたわけ。
いないはずないと思うんだけどな。
一万円弱の水中カメラ(アクションカメラ)を買って、水中を見てみようかとさえ思ったね。
ネットで色々見てみると、五島でも一番南の福江では釣れている。
うーん、同じ五島といっても距離あるからなあ。
それとも、ベラの大群の片隅にいるのかい? カワハギさん。
来月、島外から彼女がカワハギの餌と仕掛けとともにやって来るから、とりあえずその時まではカワハギのことは忘れて、タイとかイサキとかブリとかヒラマサのことを考えておこう。準備もしておこう。そして、来週以降で行ってみよう。
今週末は土日とも仕事だし、風もしばらく強い予報だし。
さて、この島ですが、来島して二週間です。その二週間で分かったことがあります。
それは、釣りに適した場所が意外と少ない、ということ。
いやね、十分あるのですよ。そりゃあ、島ですから。全方位海ですから。
釣り人口比で、釣りのポイントが少ない、ということですね。
いっぱい居るんですよ、釣り人が。土日には、多分島外からもやってきている、かもしれない。イヤ、来てるね。うん。
釣りの話はいいんですよ。って、ここまで釣りの話しかしてないけど。
医療の話です(ここにきて突然の)。
この島には、心療内科とか精神科なんてクリニックはないのですね。
で、移住前にもうすぐ引退される、佐世保市長へのメールってヤツを出していたんですよ。
離島地域における障害者福祉と医療のあり方について。
(略)島内診療所へ、月に1,2回でも専門医を派遣できないでしょうか?
恐らくはこのような要望は多くあり、対策も幾度となく話し合われているかと思いますが、速やか且つ実効性のある対応を切に願います。(略)
そんなことをつらつらと。
返答はありました。
丁寧な返答が。
(略)本市の離島地域におきましては、医師をはじめ、医療従事者の確保について大変苦慮しており、診療科の増設や新たな医師の派遣については厳しい状況がございます。
そのような中、本市では、宇久町にお住まいの皆様が少しでも安心して生活していただけるよう、「宇久保健福祉センター」を設置し、宇久地域における健康診査、各種健康教室や健康相談など、保健や福祉に関する事業を行っており、常駐の保健師による電話・来所・訪問等による支援を行っていますので、お困り事やご不明な点等がありましたら、お気軽にご相談いただければと存じます。
(略)いずれにしましても、本市としましては、地域にお住いの皆様や新たに生活を始められる皆様が、健やかに安心して暮らしていただけるよう、引き続き、保健福祉政策の推進に努めてまいります。
最後になりますが、西野様の宇久島での生活が充実したものになりますよう心から願っております。
ふうむ、なるほどね。
とりあえず保健福祉センターに、障害者手帳の更新手続きの際とかどうしたらいいか、早めに相談しておいた方が良さそうです。診断書は必ずいるだろうしなあ。医師がいないのにどうする?
まあ、本土に行ってらっしゃいって言われるだろうな。
あ、そうそう。何回前だったかな。早く車が欲しいなって書いてた記憶がある。
そんな車は、来島して最初の日曜日に社用車をあてがわれまして。その車で公然と釣りにも出掛けているのであります。当然その許しを得て。ありがたい。
というか、本当に、どうしてこんな幸運が転がり込んできたのかがわからない。
「自分から動いたからだ」
と、奈良県の職員からは言われたけど、それなら、もっと作家としても成功していてよくない?
なんて、それは望みすぎか。実力不足でもあるし。
と、いうわけで、今回は宇久島にカワハギと心療内科医が居ない、という話でした。
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