第2話 福祉の文字を借りた悪徳事業者
奈良に転居して三ヶ月。
見学に行った最初の事業者は、大阪市浪速区、新今宮駅近く。
駅から事業所の入る雑居ビルまで200メートルと利便性はいい。数字だけ見れば。
後に主治医や、相談員に「新今宮駅近く」と伝えただけで顔を歪ませる。そういうエリアなんですね。知らなかった。
私は簡単な社会的ルールを守れない"輩"にストレスを受けることが多いのです。
歩行者信号を守らない、路上喫煙をする、エスカレーター上を歩く。
駅から事業所までの間、そういう"輩"だらけなのは、私が目を背ければ(簡単なことではないが)済みます。しかし、その事業所にも"輩"だらけでした。職員、利用者双方に。
当然見学後、こちらから断りました。自分には合わないと。
次に見学したのは奈良市、桜が美しい佐保川が近くを流れる場所。
駅からは少し歩きますが、その距離が逆に気分が良かった。ウォーキング代わりですね。
さらに、出勤時刻が一般企業や学校の登下校時刻とはズレているので、電車も空いている。特に観光客が減っている時期で、道行く人もまばら。
肝心の事業者は、ブラック企業の求人でよく見る「アットホームな職場」という謳い文句を、そのままの正しい意味で使えるような場所でした。その印象は、見学、体験、面接を終えても変わらず。
そして、その事業所で働き始めます。
ですが、世間はコロナ禍。狭い作業場で密にならないよう、時短勤務が続きました。
まあ、それはプラスでもマイナスでもないのですが、そういう時期でした、ということで。
さて、充分な配慮を受けながらの短時間の仕事。ストレスはかなり少なく勤務できました。
たまに福祉的知識のない事務員が余計な手出しをしてくる(口出しも)こともありましたが。
そんな時は、「ちょいと逃げますよ」と言って離席します。または、帰ります。たまにですけどね。
そして、奈良駅を通り過ぎ、奈良公園へ。
目的は鹿セラピーです。
一年強たまに通う間に、仲良くなった個体(私は『オジイ』と名付けました)もいて、正に癒しの空間でした。奈良公園もまた、観光客がほとんど居ませんでしたし。
さて、なぜそんな職場を退職するに至ったのか。
答えはタイトル通り。
これは世間の常識らしいのですが、就労継続支援事業所というのは、補助金が出るので低リスクで運営出来るんですよね、手軽に。そのせいで、手軽に金を得たい"輩"が代表を務めていることも少なくないようで。
「福祉を食い物にする」なんて見出しもよく目にします。
私が勤めていた事業所はどうなのか。
それは勤めている間、徐々に明らかになっていきます。
就労継続支援は、行政による福祉サービスを利用することになるので、誰でも利用できる訳ではありません。必ずしも障害者手帳を持っている必要はないですが、利用者のほとんどは手帳持ちでしょう。
私も二級の手帳持ちですが、通常時はごく普通。むしろそこそこ上手く立ち回り、頭もくるっくる回転します。
そんな「利用者」である私に、「職員」が愚痴を零しに来たり、直球で相談してくるようになりました。
次々に明かされる代表者の違法行為。私文書偽造、同行使。複数の名義貸し。
私が中でも悪質に感じたのは、もっと陰湿なことでした。元々福祉サービスですから、多くの配慮が必要な利用者が通所してきます。
ですが、自立意欲があるにもかかわらず、それが難しく真に福祉サービスの助けを求めている人であっても、事業者が「面倒」あるいは「ハイリスク」と感じたら、その人に対して考えられない行為に出ます。
嫌がる仕事を与える、あるいは逆に仕事を与えない等して、利用者を追い込んで自分から退所するように仕向けるのです。
我慢できないですよね。私は、職員の一部の方の力も借りて、関係行政機関に報告し、役所の監査を受けるよう仕向けました。
そして、抜き打ちでは無いものの監査が決まりました。すると、代表者は過去数年分の書類をさらに偽造するよう命令を出したのです。
その頃には、事務所内に監視用のWebカメラが設置されました。当然カメラの使用目的など、利用者はもちろん職員にも説明はありません。
さて、監査の結果はどうだったのか、気になっていることでしょうね。
残念ながら、私が勤めていた間に監査が行われることはありませんでした。
ここでも新型コロナウイルスが原因です。
障害者施設で多くのクラスターが発生していた時期と重なったんですね。
監査は延期になり、退所した今となってはどうなったのか知る方法はあっても知る気になりません。
ですが、先月事業所の前を通ったときには稼働していたので、偽造が上手くいったのでしょう。
全ての就労継続支援が正しく行われていないわけではないでしょうが、私は見限りました。
福祉サービスも、障害者枠での就労も諦めた私。次に目指すのは「自営」ですね。
作家業と兼務できる何か。
ここで本当なら次回予告で
「新規漁業就業者総合支援事業における行政と現場の思惑の違い」
さらにその後に
「移住するにも住居がない! そこに現れた救世主」
なんて書くべきなのでしょうが、その件についてはもうひとつのエッセイでちょいと書いてしまっているんですよね。
そこのリンクを貼っておこう。
https://kakuyomu.jp/works/16816927863040174149/episodes/16817330653230280269
そして、次回は未定。
なにを書こうかな。
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