エピローグ めぐるいのち
青々と茂る竹の枝は、天に向かってまっすぐ伸びる。
笹の葉が風に揺れ、さらさらとたてる葉ずれの音が耳心地良い。
木漏れ日の差す竹林の中を、一人の少女が歩いていた。
ひどくやせているが、その瞳の色は深く、足取りもたしかで、栄養失調には見えない。
どこか古風で豪奢な着物をまとっているが、歩くその足元は素足だ。
全体的にちぐはぐな印象を与える少女だった。
少女はふと、林の向こうに葉ずれの音とは違う、ぱしゃぱしゃと水を叩くような音を聞いた。
そちらへ行ってみると、竹林の中に、こんこんと水の湧く、小さな泉を見つけた。
そして、そのほとりには一人の女がうずくまっていた。
三十半ばほどの、大柄でふっくらと太った女性だった。
まるで手を洗うような動作をしているが、泉の立てる音はもっと大きななにかが動いているような音だった。
「……なにをしてるの?」
少女が声をかけると、女は振り向く。
いきなり声をかけられても驚いた様子はなく、見知らぬ少女のことも特に不審には思っていないようだった。
女は照れたような仕草で頭をかき、豪快に肩を揺すって笑う。
「いや、なにね、この子が無事産まれるようにってお堂にお参りにきたんだけどね。
その帰り道、急に産気づいちまってさ。
しかたないから、ここで産湯をつかわせてるってわけさ。あっはっはっは」
少女がその手元をのぞくと、たしかに人間の赤ん坊が手ぬぐいにくるまれ、泉の水を浴びていた。
女の笑い方は出産したばかりの妊婦とは思えないほど、元気なものだった。
そんな乱暴に扱って大丈夫なのか、と見ている方が心配になるほど、豪快な手つきだ。
赤ん坊は火が点いたように泣きじゃくる。
が、赤ん坊を抱く姿は手慣れて見え、一人目や二人目の出産ではないのは、間違いなさそうだった。
少女は赤ん坊の姿をじっと見つめた。
生まれたばかりの赤子は腕も脚も曲がっていて、目はつぶれたように閉じ、赤ん坊という呼び名の示す通り肌は真っ赤で、まるで猿の子どもを見ているようだ。
しかし、この世に生まれ出でたばかりの姿はどこか輝いて見え、力一杯泣き叫ぶ声は生命力に満ちて感じられた。
少女はしばし逡巡したのち、おずおずとたずねた。
「……抱いてみていい?」
女は一瞬きょとんとしたものの、すぐに満面の笑みを作り、力いっぱいうなずいた。
「もちろんさ」
天城ミコト修行中! 倉名まさ @masa_kurana
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