第四章 雲を貫く山の上で

第一場 孤独な戦い

 朝も昼も夜もなく、月日もなく、季節の移ろいもない。

 あるのはただ、永劫にも等しい孤独の時間だけだった。

 安らぐことは赦されなかった。

 まどろむことすらなく、気をゆるめる暇もない。

 己の内から、心を喰い破ろうとする力相手と戦い続けなければならなかった。

 この孤独な戦いは誰とも分かちあえなかった。

 余人にはその苦痛を想像することもかなわない。

 だが、彼女はそのことを恨んだりはしなかった。

 恨みの念を抱けば、闇に心を明け渡すだけだ、と知っていた。

 もはや何も思わず、何も考えず、ただこらえ続ける。

 だが、それも限界が近づいていることを自覚していた。

 もう、彼女は疲れ果てていた。

 その証拠に、世界には闇の者達が跳梁跋扈している。

 このままでは、闇の力は自分を呑みこみ、際限なく世界へと広がってゆくだろう。

 そうなる前に、次なる者にこの使命を託さなければならない。


 幸い、その者はもうすぐそばまできている。

 数多の試練を乗り越え、役目を負うにふさわしい資質を身につけていた。

 純粋で心根はまっすぐ、そして強い意志を感じた。彼女であれば安心して託すことができる。闇の力に屈することはないだろう。少なくとも、しばらくの間は……。


 自分も、かつては彼女のようだったのだろうか。

 それはもう、あまりにも遠い記憶で、よく覚えていない。

 いまはただ、この重荷をはやく下ろしたかった。

 もう疲れた。はやく眠ってしまいたかった。


 永遠の安らぎとともに。


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