第二章 二人の歩き巫女

第一場 復讐の少女

 少女は幼くして自分を取り巻く世界のすべてを奪われた。

 天災にも似た、圧倒的な暴力によって。

 彼女を育て、家族同然に過ごしてきた仲間はもういない。

 いつか帰り着くべき故郷は滅び去り、いまはもうない。


 瓦礫は業火に呑まれ、墓をつくるどころか、逃げのびるのがやっとだった。

 醜悪なる異形のモノ、鬼の仕業だった。

 少女は孤独な流浪者となり、国を出でた。

 寄る辺はなく、支え合う友もない。


 ただ一つ幸いだったのは、自分が鬼を討つ力を宿した、選ばれた存在―――歩き巫女となったことだった。

 少女は鬼を憎み、殺し尽くした。

 鬼と戦うその一時だけ、胸にわだかまるうずきを忘れることができた。

 世界中のいたるところに鬼は存在した。

 誰に乞われることなく、誰に感謝されるでなくとも、少女は鬼を追い求めた。


 すべての鬼を滅ぼし尽くすことが少女の望みだった。

 やがて、歩き巫女の修行を遂げた時、世界をあまねく救う存在、薄明の巫女になれるという。

 その方法はいまもって分からない。


 ただ、正直に言えば、少女はその呼称をあまり好ましく思っていなかった。

 薄明―――夜明けの薄明かりでは足りない、と少女は思う。

 真夏の空に輝く太陽よりもなお熱く、灼熱の光で全ての鬼を燃やし尽くすような、そんな存在になりたかった。

 異形の者どもを焼き滅ぼすことができるなら、その炎に身を焦がされ、自身もこの世から焼失してしまってもいい。


 復讐だけが、ただ一つの自分の生きる意味なのだから。

 少女は心の底からそう想い、願っていた。


 あの出会いの時までは。

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