第4話

 夏休み明けの頃、半年間もマラソンを続けていたのだが、まだ速くなった実感はなかった。

 学校の体育の授業ではマラソンは冬の教科だったから春も夏もなかったのだ。

 クラスメイトとちょっとした追いかけっこをしたことはあったけど、自分の成長は感じられなかった。

 ところが2学期の体育のときに不思議な感じを覚えた。疲れなかったのだ。水泳も鉄棒も跳び箱もどんなに動き回っても疲れなかった。

 僕の動きはあいかわらずバタバタしてたので運動の得意なクラスメイトから、からかわれた。でも運動神経抜群なクラスメイトが疲れているのを知った。息は切れていたし、動きが重たそうだった。なのに僕は疲れなかったのだ。

 たぶん僕は体力がついてきたのだと思う。

 よし目の前の跳び箱をきれいに飛んでやろうと、全力でのぞんだ。ところが手をつく位置が遠すぎたようで、高さをあげられず、太ももを思いきりぶつけた。

 跳び箱台とともに派手に倒れこんでしまった。

 クラスメイトたちの笑いを聞いたとき、まだまだだなと、反省した。

 でもなぜが自分でも笑ってしまった。勢いよくやって、盛大な失敗をしたことは初めてで、なんだか気持ちがいいなあと思えた。

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