5-13
シオリカはその驚くべき古代遺跡のことを誰にも明かさなかった。もちろん父であるセギルにもである。古代科学を活きたまま封じ込めた遺跡の存在がもしも王宮の知るところとなれば、全てが破滅に繋がると幼いシオリカにも充分に察せられた。
ただチリにだけはこの秘密を是非とも打ち明けたいと考えていた。
そしていつか遺跡の展示物を見せたいと願っていた。
けれどその機会が得られないまま、浜はドラグイの侵略に遭い、ケンカ別れのような形でチリとは疎遠になってしまったのである。
チリにもう来るなと告げられたあの日以来、シオリカは傷心を紛らわせるように古代科学の研究に没頭した。人目を避けて危険を承知で森の奥にある遺跡にしばしば赴き、アリスの助言を得ながら科学の実態を紐解いていった。またそれにつれシオリカの中に復元されるべき科学とそれに値しないものを見極める探知機のようなものが身についてきた。それは大まかに云うとムサシノの民に役立つモノとそうでないモノに別れている。
たとえばエルキ発生器やエンジン、モタル、時計などはすでに別の遺跡から発掘、研究され、その性能はどうあれ曲がりなりにも王宮内で復元されている科学であり、いずれ人々の生活に豊かさを与える技術であるとシオリカは考えた。
けれど展示物の中には明らかに人類にとって危険極まりないモノも含まれていた。
そのひとつがシオリカが今から使おうとしている打ち上げ花火であった。
ぱびりおんでアリスはそれを映像をまじえて説明した。けれどシオリカにはその直前に怖気を走らせたげんばくなるものと同類の科学であると認識せざるを得なかった。
夜空に美しい大輪を咲かせる打ち上げ花火とヒロシマとナガサキという地に巨大なキノコ雲と共に地獄を演出したげんばくはシオリカの目に何故か同じに映った。
だからこそあえてシオリカはそれを復元させた。
そしてその応用がムサシノを含めてこの世界に混沌をもたらすと考え、封印した。
けれど今日、エルキ発生器を家から持ち出す際にふと脳裏にある可能性が過った。
夜になる。
もしかするとコレを使わなければならない事態が訪れるかもしれない。
そう考えた時にはシオリカはほとんど反射的に打ち上げ花火を麻袋に突っ込んでいた。
暗闇の岩場、バルタとの短い問答を終えたシオリカは煙火筒と呼ばれる筒を平坦な場所に設置し、気持ちを落ち着けるように細く長い息を吹き出した。
次いでひと呼吸の間、夜空を睨みつけて月が出ていないことを呪う。
けれどすぐにそれを断ち切り、筒の下層に用意していた発射火薬を詰め込んだ。そしてゼノの松明から譲り受けた蝋燭の炎を手にしていた花火玉に繋がる導火線へと近づける。
―――― どうかチリを見つけさせてください。
その願いを込めた炎が火薬を染み込ませた麻紐に燃え移るとそれは微かな音を立てながら爆ぜた。シオリカは一瞬の躊躇もなく導火線を下向きにして花火玉を筒に押し込み、素早く数歩後退った。
するとまもなく大きな紙袋を潰したような破裂音が響き渡り、それから火柱と共に花火玉が漆黒の夜空へと打ち上がった。
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